人探し54
(やはり保有する魔力量が問題か)
過去視を今以上に制御下に置く方法を思案するヒヅキだが、結局はそこに行き着いてしまう。
ヒヅキは人種の中では魔力は多い方だが、そもそも人種自体が保有する魔力量が少ない種族であるので、その中で多い方など世界で見れば大した事はない。ヒヅキの保有魔力量など世界で見れば並以下。
かといって、人種にはエルフの様に魔力が視える眼が在る訳でも、獣人の様に身体能力が高い訳でもない。誇れるものといえばその数ぐらいだろうか。いや、知能もそれなりに高いので、魔力量の事を別にすれば魔法を扱うのには適している種族と言えるのかもしれない。
しかし実際には、その保有する魔力量の少なさから魔法に関しては冒険者任せであった。その為に人種はあまり強く無い。領土も全体で見ればそこまで広くはないが、周辺の敵国は主に獣人ぐらいなので滅亡までは至っていない。獣人は身体能力は高いが、魔法に関しては人間と大差なかった。
ヒヅキは自身の魔力量の少なさに嘆息するも、保有魔力量を増やす方法など、それこそ魔力水を飲んでいれば若干増える可能性が在るという事しか聞いた事がない。
(保有魔力量が少ない分、魔力操作を集中的に鍛錬したけれど、それもここまでの魔法の前では役に立たないか。規模を縮小してもこの様ではな)
陽炎のようにぼやける輪郭の幻影に、ヒヅキは内心で溜息を吐く。方法は解っても、それを実行できる手段が無いというのは惨めなもの。
(魔力量を増やす方法、ね。それも探さなければならないのだろうけれど、もう手遅れか。今必要だからな。それに、今後も必要とは限らないし………………旅する傍らで見つけられればいいといったところか)
ふぅと小さく息を吐き出すと、ヒヅキは頭を切り替える。方法が存在しない可能性が高い以上、ついでに探す程度で十分だろう。
諦めて過去視の制御に集中していく。幻影の輪郭をより鮮明にする方法を模索する事が優先ではあるが、同時に魔力消費量の軽減も必要になってくる。制御して過去視の性能を向上させると、それだけ必要な魔力量も増えていってしまう。
ままならないなと思いつつ過去視を制御していく。そうして夜が明けると、起きたエイン達と一緒に朝食を食べた。
準備や片付けを済ませた後、幻影を追って移動を開始する。
現在地はホーン国内の東寄りを半ばほど進んだ場所。山道はかなり急になっており、場所によっては手も使わなければ登れないほど。
(こんな場所を行軍なんて出来ないだろうな)
道幅はギリギリすれ違えるぐらい。移動するにも少数でしか難しいだろう。
(こんな場所で待ち伏せでもされればひとたまりもないな)
崖のように切り立つ周囲の岩肌に目を向けた後に、道の先へと視線を向ける。
(それに上や横から岩やら丸太なんかを落とされれば被害は凄そうだ………………道も使えなくなるが)
何度も使える方法ではないが、それでもこことは戦いにくそうだなと、周辺を警戒するついでに考えるヒヅキ。
「………………ふむ?」
そんな事を考えていると、対象の幻影が山道を逸れてより険しい道を進んでいくのが視えた。
ヒヅキは少し困った表情を浮かべた後に、後方の三人へと横道に逸れる事を告げる。それから少し先に進むと、道を外れて進んでいく。
そこは針山の様な場所であった。
急な傾斜に、何者も寄せつけないというかのように尖った石柱が足下の岩から生えている。石柱の高さは高くともひざ下辺りまでなのでそこまで高くはないのだが、それでも地上の草の代わりと言わんばかりにそこら中に伸びているので、結構な数が確認出来た。
もっとも、それで道が無いという訳ではないようなので、幻影を追いながら足下に気をつけながら進んでいく。その上に転んだり踏んでしまうと大惨事になりかねないのだから。




