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別れ

 アーイスに案内されながら、ヒヅキはショッリの森に慣れた者でなければ分からないであろう道なき道を進んでいた。

「あと少しでマイグーラ草原か………」

 数日ではあったが、色々と衝撃的な出来事が続いた濃い数日だったために、ヒヅキは森を出るということに何故だか感慨深さを感じていた。

 それからアーイスが告げたように約30分ほど森を歩くと、とうとう木々の合間から開けた場所がしっかりと目に入ってくる。

「さぁ、着きましたよ」

 ショッリの森とその先に広がるマイグーラ草原の境目近くで、アーイスは二人に振り返る。

「ここまで案内していただきありがとうございます」

 ヒヅキはここまで案内してくれたアーイスとマリア、それぞれに頭を下げながら礼を言う。それにマリアは慌てたように手を振りながらヒヅキに頭を上げるように言うと、

「そんな!お礼なんて!本来はこちらこそお礼を言わなければいけない立場ですのに!」

 そう言い終わるやいなや、マリアは勢いよくヒヅキに頭を下げる。

「今回は危ないところを助けていただきまして、村人を代表して心より感謝致します!」

 そこでマリアは緊張を解すかのように一度大きく息を吸うと、ヒヅキに向けて改めて礼を述べた。

「ありがとうございました」

 その一言は決して大声ではなかったのだが、それでもヒヅキの耳が一瞬他の音を拾うのを忘れるほどに心から述べられた感謝の一言であった。

 ヒヅキはその心からの謝意に返せる言葉を咄嗟には思いつかなかった。

 それよりも、言葉にこれほどまでの重さを持たせることが出来るという事実に、驚くとともに心底感心していた。

(これが心、というものなのかな………)

 ヒヅキは眩しい何かに触れたような気がして、自然と僅かにだが笑みを浮かべた。

 それからヒヅキはアーイスとマリアの二人と幾ばくかの言葉を交わすと、とうとうショッリの森を出た。

「お世話になりました。また機会があればお会いしましょう!」

「こちらこそ、大変お世話になりました。またいつかお会い出来ることを願っています」

「この森より、ヒヅキ様の旅の安全をお祈りいたしております。お気をつけて!」

 ヒヅキは二人に一礼すると、前を向いて歩き出す。

 次の目的地はカーディニア王国の首都ガーデン。どんな場所なのか、ヒヅキは今から楽しみにしていた。



「あの、お父様」

 ヒヅキの背が小さくなるのを眺めながら、マリアは隣に立つアーイスに声を掛ける。

「どうした?マリア」

 それにアーイスが優しい声で応えると、マリアは悩むように数拍の間を置いてから問い掛けた。

「……旅、というものはそれほどまでに魅力的なのでしょうか?」

「どうした?急に」

 唐突なマリアのその質問に、アーイスの声に若干戸惑いの色が混じる。

「昨夜、ヒヅキ様は自分の旅に目的らしい目的は無いと仰っていました。ですから、旅というもの自体にそれほどまでに魅力があるのかと思いまして」

 昨夜のヒヅキとの会話を思い出しながら、マリアはそう言葉を紡いだ。

 それにアーイスは考えるような間を置くと、その質問に答える。

「それはその者の資質に依るのだろうが……そうだな、少なくとも、旅をすれは成長は出来るかな。それがどの様にどういう方向性で伸びるかまでは分からないが、旅はその者の生涯の財産のひとつにはなるだろうな」

「財産ですか……」

 マリアはそう呟くと、何かを考え込むように口を閉ざした。

「だが、旅は危険もつきものだし、自由である代わりに全ての行動の結果は自己責任だ。だから、マリアにはまだ旅は早いかもしれないな。少なくとも、もう少し攻撃の魔法が使えるようになるか、逃走や隠密が巧くなくてはな」

 アーイスはそうは言ったものの、純粋に戦闘力だけならマリアはそこらの冒険者にも引けをとらないだろうと思い直す。

 マリアは確かに防御魔法が得意なのだが、別に攻撃魔法が使えないとか弱いという訳ではなく、寧ろ、冒険者の魔法使いでさえ舌を巻くほどの実力の持ち主だった。しかし、外の世界を旅するには単純な戦闘力だけではなく、他に必要な要素が山ほど存在していて、残念ながらマリアにはまだ足りないモノがあまりに多すぎた。

(ヒヅキ様と、ということなら考えたんだがな……)

 アーイスが声に出さずにそう考えていると、マリアが考え事をやめて口を開いた。

「いつか………いつか、私も旅というものが出来るのでしょうか?」

「そうだな、幸いにしてエルフは長寿の種族だ。そしてマリアはまだまだ若い。今から学んでいけばいつかその日が訪れるだろうさ」

「はい。いつかお父様のような立派な大人になれるように精進致します!」

 マリアの決意の籠った言葉を聞いたアーイスは、僅かに苦笑いを浮かべる。

(立派な、か)

 アーイスは、自分がエルフの里を出た時のことを思い出して、少しだけ胸中に苦いものが広がるのを感じていた。

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