名も無き村にて4
四人は黙って朝食を食べ終えると、食べ始める時の様に短い感謝を自然の恵みに捧げた。
それを終えると、各自が各々の行動を開始する。
「ヒヅキ様、少々お話があるのですが、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
アーイスの伺いの言葉にヒヅキが頷くと、アーイスの案内で二人は家の外に出る。
「いきなりお誘いしてしまい申し訳ございません」
家から少し離れたところで、アーイスはヒヅキの方へと向きを変えると、そう言って頭を下げた。
それにヒヅキが気にしてない旨を伝えると、アーイスは小さく安堵の息を吐いた。
そのアーイスの反応に、
(そんなに難しい人間だと思われてるのかな?それとも恐がられてるのか?)
ヒヅキは若干残念な気持ちになると、少しだけアーイスにその辺りのことを訊ねてみたくなった。しかし、直ぐにまたアーイスが頭を下げたことで、その考えは意識の外に消える。
「まずはじめに、ヒヅキ様に村の者として謝罪しなければなりません。村の者たちが失礼な態度を取ってしまい、誠に申し訳ございません」
ヒヅキは何事かと自分の記憶を探ろうとするも、それより先にアーイスが謝罪の原因を口にする。
「彼らのヒヅキ様を忌避するような態度は一種の防衛本能のようなモノでして、彼らはスキアと実際に戦ってない為に、噂程度の情報しか知らないスキアに対する恐怖よりも、村を破壊され、家族や家族同然の村人たちが殺されたことへの喪失感や絶望感に苛まれているだけなのです。無論、その感情の矛先を向けられているヒヅキ様には堪ったものではないでしょうが………」
そこでアーイスは顔を上げる。ヒヅキにはそのアーイスの表情がどこか覚悟を決めた者のそれのようになったように感じた。
「理解してほしいとまではさすがに言えませんが、そういう事が原因だということを知っておいてほしかったのです。本心では生き残った村の者はヒヅキ様に感謝しているはずですから」
アーイスの言葉に、ヒヅキは少しだけ困ったように「はぁ」とだけ返した。
状況や立場は違えど、ヒヅキは自分も生き残った者であるために、生き残った者の気持ちが多少は理解出来るのだが、そもそも村人の反応など全く気にしていなかった。それに、正直そこまでこの村や村人に興味は無かった。ヒヅキの目的はただこの森を抜けることだけなのだから、それさえ叶うのならば、他のことはわりと本気でどうでもよかった。
そういう意味では、今目の前で真面目な顔をしているアーイスは森を抜けるまでの案内役であるために、機嫌を損なわないように多少は気を遣っているし、そのアーイスが大事にしている家族の二人にも気を配る必要があった。だから、この村で唯一この一家にだけは興味があると言えば興味があるぐらいであった。
(我ながら冷めてるものだ)
そう思う自分に内心で呆れながらも、同時にまだそう思えるだけマシなのかもしれないともヒヅキは考える。
気を配るように意識しているからまだ何とかなっているが、気を抜くと、当たり前のようにアーイスを道を示す道具ぐらいにしか思えないのだから……。