人探し21
過去視の制御といっても、そこまで特別な事をしている訳ではない。
簡単に説明してしまえば、過去視というよりも魔法を身体に馴染ませているだけである。
一体化するといえばいいのか、要は自分の手足の様に自然と扱えるようにするという事だ。
しかしこれが、かなり難しい。簡単な魔法であれば問題ないのだが、複雑で難度の高い魔法であれば、それを馴染ませるのにはかなりの時間が必要になってくる。
そもそも高度な魔法は、それを掌握するのに必要な魔力量が多いので、扱える者が限られている。魔法の掌握とは、自分の魔力を起点として発動させた魔法と魔力の食い合いをするところから始まるのだから。
魔法は始まりこそ術者の魔力を使用するが、その後は周囲の魔力で勝手に成長していく。この辺りも幾つか制限が在るのだがそれはともかくとして、魔法というのは暴食なので、成長した魔法は顕現させた主を喰い殺そうとしてくる訳だが、それに餌を与えて飼い慣らした後、次はそれから適度に力を抜いていかなければならない。
これがまた難しい。その適度な部分を見極めなければならないし、力を抜くだけでも幾つも手順が存在する。何より、その方法が魔法によって異なる為に幾通りも存在しているので、正解を見つけるのが大変なのだ。
高度な魔法であった場合、その方法が無数にあるようにみえて、その実一本道だったりするのだから質が悪い。
そしてヒヅキはそれを難なくやってのけてしまうのだが、それはヒヅキの数少ない魔法に関する才能だろう。
そうして完全に魔法を支配下に置けたとしても、油断はできない。魔法というモノは繊細なので、管理も慎重に行わなければならないのだから。
一般的に、魔法は1つずつしか管理できないとされている。2つ以上を同時にとなると管理が難しく、魔法の暴走を引き起こしてしまう可能性が急激に高まるからだ。
これは例えばフォルトゥナの場合、普段使っているようなそこそこ高度な魔法であれば1度に3つまでは同時に管理できる。
フォルトゥナでも安定して魔法を管理するのはそれが限界だが、これが簡単な魔法であれば数は増えていく。まぁそれはそれとして、もしもヒヅキが同程度の魔法を扱うとしたら、同時に管理できる数はフォルトゥナの倍以上の7つ。これも各魔法に慣れさえすれば、10まではいけるかもしれない。その異常な管理能力は、単に魔力操作に格段の才能があるからという訳ではないのだろう。
そんなヒヅキでも、過去視を管理下に置くには骨が折れるようで、慣れてきた今でも、過去視を発動しながらでは感知魔法をある程度御制限した状態で発動させるのが精々。やっと馴染み深い気配察知も併用できるようになってきたものの、これ以上は厳しい状況であった。
なので、感知魔法と気配察知は常時発動させるのはどちらか一方のみ。それでも、他の魔法は起動できそうもなかった。少なくとも、光の剣や魔砲なんて扱うなど不可能だろう。
そんな状況では、もしも襲撃があった場合に困るので、過去視の制御は何も機能の開放だけが目的だけではなかった。
(そもそも、過去を視るというのを人の身で御すという発想自体が烏滸がましいのだろうが)
フォルトゥナの言っていた伝説という言葉が重くのしかかるような気分にヒヅキは首を振ると、一度過去視の起動を止めて別の事をすることにした。
(とりあえず、左腕の整備でもするか。いい気分転換になるだろう)
そう考え小さな光球を現出させると、ヒヅキは整備に必要な道具を用意してから左腕から義手を外す。
「………………」
光球の光で手元を照らしながら、ヒヅキは黙々と整備をしていく。
傍から見れば片手では大変そうな整備だが、ヒヅキは短時間で整備を終わらせると、義手を再度取り付けて道具を片す。
その後にひとつ息を吐き出して光球を消すと、気分転換の済んだ頭でヒヅキは再度過去視の制御を行うのだった。




