名も無き村にて3
ヒヅキに対する村人の反応を大別すれば2通りある。
1つ目は距離を取って遠巻きにヒヅキを見つめる反応で、これはヒヅキに対してあまり良い感情を持っていない者に多い反応であった。そして、その反応を示す者は、主に避難していてスキアとの戦闘に参加してなかったり、または、そもそもその戦闘の様子自体を直接目にしていない者がほとんどであった。
2つ目は1つ目とは反対に、積極的に声をかけてくる者で、挨拶だけでなく、助けてもらったことに対するお礼などを述べる者が多かった。こちらは前者の反応の者たちと違い、スキアとの戦闘に参加していた者や、そう遠くない位置から直接戦闘をその目に焼きつけた者に多かった。そんな反応を示すので当然ではあるが、こちらはヒヅキに対して好意的な者がほとんどであった。
そんな反応をされながらも、簡単に村の地形や構造を確認しつつ、ついでに村の様子も確認しながら村を歩いて回ったヒヅキは適当なところでそれを切り上げると、あまり遅くならないうちにアーイスの家に戻ることにしたのだった。
ヒヅキがアーイスの家に戻る頃には陽もだいぶ昇り、辺りは明るくなってきていた。
アーイスの家では三人全員が既に起きていたが、朝食はヒヅキ待ちの状態であった。
泊めてもらった手前、それを申し訳なく思ったヒヅキだったが、ヒヅキが何かを言う前に、アーイスが口を開いた。
「いかがでしたか、村の様子は?」
「瓦礫の撤去などは既に始まっていましたが、まぁ概ね表面上は穏やかなものでした」
「………そうでしたか。教えていただきありがとうございます」
アーイスはそれだけ言うと、ヒヅキに他に何か問い掛けようとはしなかった。
「ありがとうございます。気を遣わせてしまったようで」
ヒヅキはそっとアーイスの近くに寄ると、アーイスにだけ聞こえるような小声でそう感謝を述べた。
「さぁ、何のことでしょうか?」
ヒヅキの謝意に、アーイスはヒヅキの方に身体を向けると、僅かに首を傾げてみせた。
ヒヅキはそれに首肯だけを返すと、マリアが「こちらにどうぞ」と勧めた椅子に礼を言って腰掛けた。
「それでは朝食にしようか」
アーイスがそう言うと、三人は少し頭を下げて数秒ほどの短い黙祷を捧げた。
ヒヅキもそれに倣い黙祷する。
エルフ族は人族と違い、神ではなく自然の恵みそのものに感謝を捧げる。それはエルフ族がかつて放浪の民であった名残のようなものであった。
それが終わると、四人は揃って朝食に手をつけるのであった。