人探し20
そんな事を考えつつも、夕食を終えて話し合いを行う。
今回の話し合いは主に食料問題について。これについては以前から話し合われていたが、場所が場所なだけに進展は無かった。しかし、今回は少し違うようで、エインは少し考えるようにしてから口を開く。
「以前、私はあの砦に居た事がある」
一言一言確かめるような口調でエインは話を始める。
「それはスキアが襲撃してきた頃からだが、この砦が落ちるまではここに居た」
「そうなのですか」
「ああ。それでだ、あの砦がどこまで破壊されているかによるのだが、あの砦には畑があったのだよ」
「畑、ですか?」
「こんな場所だ、ある程度は自給自足出来るようにな。それで、流石に保管されていた食糧は腐っていたりでもう使い物にはならないだろうが、畑の方は多少は可能性が在るかもしれない」
「しかし、たとえ畑が無事だったとしても、今の季節では実りはないのでは?」
「いや、年中収穫出来るように様々な植物が植えられていたはずだ。それに、あの時はこの時期に収穫出来る野菜が植えられていたはずだから、もしかしたら野生化して生き残っているかもしれない」
「なるほど。どのみちあの砦には寄る事になりそうですから、探してみましょうか」
幻影は砦の更に先へと進んでいるようなので、ヒヅキはエインの話に乗る事にした。
「ああ、頼む」
何処となく懇願するような響きで頼むエインに、ヒヅキは頷く。
そうして話し合いを終えると、エイン達は天幕に入って寝る準備を始める。
その後、エイン達は一度天幕から出てきて、持ってきていた桶にヒヅキから魔力水を貰って天幕に戻っていく。
ヒヅキ達は変わらず、天幕近くに敷いた防水布の上に並んで座って見張りを行う。
(このまま進んでいくと、ホーンへ入国する事になるのか)
幻影の先を見据えたヒヅキは、そう思案する。
国境付近にまでスキアが目撃されている現状では、カーディニア王国同様に国境付近の警備も居ないだろうが、その代わりにスキアとの遭遇率が上がることを意味していた。
その辺りはフォルトゥナと二人で協力すればエイン達を護りながらでも問題ないだろうが、それでも今以上に見張りもしっかりする必要が出てくる。
(丁度良く食料が切れているし、そろそろガーデンに戻してもいいのだろうが……)
そうは思うも、エイン達は帰らないだろう。それは出発前にも宣言されているので、ヒヅキは諦めつつこれから向かうであろう国について思い出していく。
(確か、知識と技術の国、だったか?)
とはいえ、ホーンは山岳地帯に在る国である為に交通の便が悪い事もあり、他国との交流が乏しい国だ。カーディニア王国とはほとんど交流がないと言ってもいいほど。
(知識は魔法もだが、それよりも生活の利便性を向上させる方向に向いていると聞いている。それも魔法を使わずに。技術もそちらの方面の技術らしいが……よく分からないな)
交流が乏しいという事はそれだけ情報も乏しいという事で、思い出してみても、いまいちどんな国なのか想像がつかない。ただ、伝え聞く話はヒヅキの興味を惹くには十分であった。
しかし、スキアはホーンとの国境付近でも目撃されているので、ホーンが無事に存続しているのかどうかはまた別の話。カーディニア王国が襲撃された時から大分時間も経過しているので、既に滅亡していてもなんらおかしくはないだろう。とはいえ、その場合は捜索がしやすくなるので、ヒヅキに文句は無いのだが。
プリスが桶の汚れた水を天幕の外に捨てているのを横目に、ヒヅキはどちらにしても問題はないかと結論付けて、過去視の制御の為に意識を集中させていく。
(ああ、そういえば)
意識を集中させ始めたところで、ヒヅキはふとシロッカス邸に居たプリスに似た侍女について思い出し、機会があればプリスに何か知らないかと尋ねてみてもいいかもしれないなと思うのだった。




