人探し18
ヒヅキは頭を振ると、思考を切り替える。
実際に赴いた訳でも、見てきた者から情報を収集した訳でもないので、確実な事は判らない。それに、幻影が北東に進んでいるからといって、キャトルや獣人の国に向かっているとも限らないのだから。
(まぁ、その更に先に用があるという可能性もあるのだが)
そこまで考えたところでその考えを横に措くと、ヒヅキはその考えに使っていた頭の容量を過去視の制御に使用していく。
何か掴めそうで掴めないといった感じの現状では、何かが足りないのだろう。かといってそれが何かは判らない。しょうがないので少し視点を変えて、魔法の制御の中でも魔力消費量を抑える方向に制御していくことにする。せめて休憩までの間ぐらいは魔力が保つぐらいの消費量に抑えたいところ。
ヒヅキがそうしている内に、エイン達は寝る用意をする。
天幕はヒヅキとフォルトゥナの二人が隅で座っていても、エインとプリスの二人が普通に寝るぐらいの広さはあるので問題はない。同じ天幕内にフォルトゥナが居るので、天幕の中は過ごしやすい温度に保たれていた。
エイン達はヒヅキ達を気にしながらも、眠りにつく。夜も更けていくにつれ、雨音も弱くなっていった。
朝になると、もうすっかり雨音はしなくなっていて、エイン達が起きた頃にヒヅキが天幕の外の様子を窺ってみると、澄んだ空が天上に広がっている。時間が早いのでまだ薄暗いものの、雲量は少ないようだ。
夜半に雨が上がったばかりなので、湿気と共にまだ雨のにおいが残っている。天幕周辺もぬかるんで、小さな水溜まりがそこら中に出来ていた。
とりあえず雨は止み、また直ぐ降りそうもないようなので、朝食を終えたら幻影を追うことにする。
その事を起きたエイン達に伝え、朝食の用意をしていく。
エイン達はエイン達で自分達の朝食は用意するので、ヒヅキは魔力水の用意だけ。ヒヅキ達の朝食は、食料を保管しているフォルトゥナが準備を行う。
そうして用意を終えると、食前の祈りを捧げて朝食を食べていく。ヒヅキがフォルトゥナと二人で旅をしていた間は食前の祈りなど行わなかったのだが、今はエイン達と行動を共にしているので、そちらに合わせた形だ。
因みに、フォルトゥナは食前の祈りをヒヅキに捧げているので、ヒヅキが周囲に合わせている時は、割と普通に食前の祈りを行う。
そうして食前の祈りを終えたあとに朝食まで終えると、天幕を出てまだ濡れている部分を軽く拭いて片づける。
片付けまで済ませると、ヒヅキを先頭に幻影を追って平原を進んでいく。
前日までの雨の影響で足下は悪いが、急がなければ問題ない程度。それに天気がいいので、直に地面も乾いてくるだろう。
相変わらず幻影は蛇行するように進みながらも、北東に進路を取っているようだ。
昼に一旦休憩を入れて平原を進み、夕方ぐらいに野営の準備を行う。
その頃になると周囲の平原は凹凸が減ってきて、大分なだらかな感じになってきた。ただ平坦という訳ではなく、遠くを見つめてみると、地面が緩やかな傾斜を描いているのが判る。
(それにしても、近くに動物が居ないな。いくら寒い季節とはいえ、全ての動物が活動しなくなる訳ではないのだが)
一応遠くに僅かに動物の気配は感じてはいるが、ヒヅキはその事を疑問に思う。少なくとも、山を越えてから肉眼で動物を一匹も見掛けていない。いくら凹凸の大きな平原とはいえ、山の中よりは視界が通るというのに。
まだ少し地面がぬかるんでいたので、まともそうな場所で天幕を張り、ヒヅキ達四人は今宵もその中で過ごすことにする。
夕食の準備を行いながら、ヒヅキは動物が居なくなるという事態に最近よく遭遇するなと、ため息を吐きたくなっていた。そういう時は大抵近くに何かが居る時なのだから。




