人探し16
(何処に向かっているのやら)
先まで続く幻影に、ヒヅキはそう思いつつ平原を進む。
太陽は傾いてきてはいるも、まだ夕方までには時間がある。周辺にウィンディーネ以外に危険な存在も居ないようなので、ヒヅキは森の中よりも平地が在る平原で休んだ方がいいと判断し、平原を進みながら野営に適した場所を探していく。
凹凸の多い平原とはいえ、別に平坦な場所がない訳ではない。探せばそんな場所はいくらでもあるが、近くに死角を作りそうな凹凸のある場所は出来たら避けたいので、少し選別する。
そうして夕方になるかならないかといった時間になって、ヒヅキ達はやっと見つけた場所に野営の準備を始めた。
それからはいつも通りに、夕食を摂って話し合いを行い、エイン達は天幕の中に入る。
常にヒヅキとフォルトゥナの二人して周辺警戒をしているので、見張り番というのも曖昧になってきていた。なので、それは廃して休みたい時は休みたい方が休む事にした。ただ、フォルトゥナは休む必要はないので、休もうと考えるのはヒヅキだけだが。
そんなヒヅキも、眠った時にたまに話が出来る声の主に用事が出来ない限りは休まないので、結局常に二人して周辺警戒している事になる。もっとも、それで何も不都合も出ていないのだが。
ヒヅキは天幕近くに敷いた防水布の上に座り、隣でフォルトゥナがくっつくようにして腰掛けている。おかげで天幕内も過ごしやすい温度に保たれていた。
周辺を警戒しながらも、ヒヅキは魔力水を片手に過去視の制御に集中する。ウィンディーネはヒヅキの隣に座ったり、そこら辺を歩いたり、時には姿を消したりと好きに動き回っているが、それでもヒヅキの近くから離れるつもりはないらしい。
もうそれについて考えるのも疲れたので、ヒヅキはウィンディーネと極力接しないようにしているが、捕捉しておく事だけは怠らない。ヒヅキにとってウィンディーネは敵なのだから。
過去視の制御もそういった中でしているので、完全に集中は出来ていない。それはしょうがない事なのだが、進展がみられない現在では、それももどかしくあった。
(そろそろ何か取っ掛かりぐらいは掴みたいところだけれど……)
未だに幻影の輪郭さえはっきりしない状態では、いつその幻影が捉えられなくなるか分からないので、ヒヅキの中にはやや焦燥はあった。
そもそも現在視ている幻影は時間の制御が出来ていないので、勝手に視る範囲が決まっている状態なので、それが変わらないとは言い切れないのだから。
そうした思いを抱きつつ過去視の制御をしているヒヅキを、フォルトゥナは真横からジッと見詰めている。
フォルトゥナの眼には、そんなヒヅキは体内でもの凄い勢いで魔力が循環している様子が映っていた。
体外に漏れる事無く完璧に制御しているその様子に、フォルトゥナは美しいと畏敬の念を持つ。幾度見てもその想いは薄れる事は無く、それどころかどんどん深くなっていく。
フォルトゥナは魔力に敏感なエルフの中でも別格の存在。故に魔法の制御の難しさや、その凄さを誰よりも正確に理解していた。
その卓越した魔力制御に、フォルトゥナはいつも見惚れてしまう。祈りたい気持ちも湧くが、それよりも見ていたい気持ちの方が強く、いつも見詰めてしまう。その度に、ああやはりという想いも浮かぶ。
幼い頃の想いはやはり間違っていなかったと確信しながら、フォルトゥナは幸福な想いに満たされる。
集中している為にそんなフォルトゥナの様子に気がつかないヒヅキは、そのまま過去視の制御に集中して夜を明かす。
翌朝もエイン達が起床したところで朝食の準備を行う。
そのまま朝食を済ませると、水筒に魔力水を補充したりと準備を済ませた後に天幕や防水布の片付けを終わらせ、ヒヅキ達は幻影の追跡を再開させた。




