人探し13
ヒヅキが目を覚ますと、まだ森の中は暗かった。
そのまま天上に目を向けると、枝葉が切り取っている空は、僅かに明るくなってきている。
そこで隣から視線を感じたヒヅキは、顔を上から横に向ける。するとそこには、ヒヅキをジッと眺めているフォルトゥナの姿があった。
『おはよう。フォルトゥナ』
『おはようございます! ヒヅキ様!』
ヒヅキがフォルトゥナに声を掛けると、フォルトゥナは満面の笑みを浮かべて返事を寄越す。
『何かあった?』
座って木に背を預けたまま、寝る直前まで少し離れた場所に居たはずのフォルトゥナに問い掛ける。
『いえ。何も! スキアの襲撃もなければ、動物も近づいていません!』
『そっか。見張りありがとう』
『いつでもお任せください!』
元気よく答えるフォルトゥナに笑みを返すと、ヒヅキは周囲に目を向ける。
エイン達は未だに天幕内で眠っているようで、天幕内で動きはない。暗い森の中はしんと静まり返っていて、虫の鳴き声もないようだ。
空気は冷えていて、身が引き締まるよう。そろそろ火を熾さなければ夜は厳しいかもしれないが、ヒヅキもフォルトゥナも問題はなさそうであった。
エイン達は熱を発する魔法道具を持ってきていたので、それで暖を取っているのだろう。それは誰でも使える魔法道具であったが、それでも魔法道具なのでかなり高価な物だろう。
周辺のにおいは変わらず土と木のにおい。温度や明かり以外は、ヒヅキが寝る前と大して変わっていなかった。
エイン達が起きてくるまで時間があるので、ヒヅキは早速過去視の制御を行っていく。制御さえ出来れば、視る範囲などをある程度調整は出来るというので、俄然やる気が湧く。
「あ」
そうして過去視の制御を頑張っていると、ふと思い出してヒヅキは小さく声を漏らす。
(そういえば、魔鉱石の採掘をしようと思っていたんだったな)
当面は問題ないものの、それでもそろそろ補給の目途を付けたいと思ってそう考えていたヒヅキだったが、調べ始めてすぐに過去視を修得した為に、魔鉱石の採掘が出来るかもしれない遺跡の地下へは行かずに、直ぐに山道を登ってきてしまっていた。
(まだ手持ちはそこそこ在るが、身代わり人形を作るには心許ない。そんなに作るものではないが、魔鉱石は他にも色々と使い道はあるから、在って損はないのだが)
そこまで考えるも、今から戻って採掘するか、という気分でもなかった。それに魔鉱石がある保証もない。
(他の採掘場所でも見つかればいいが、それは難しいか)
ただ単に魔力が在ればいいという訳でもないかもしれない以上、採掘場所は限られてくる。
(エインさん達が居る状態で魔物の相手はきついが……フォルトゥナが居れば何とかなるか? 採掘場所も、今なら増えてそうだしな)
現在スキアが各国に押し寄せているが、それに伴い穢れも増してきている可能性が在った。もしそうであれば、魔鉱石の採掘場所も増えている事だろう。
(スキアに加えて魔物まで跋扈するようになっては、もう終わりだな。それに堕ちた神まで加わる可能性が在るのだから……そこまでいっては、俺でも勝てないな)
スキアや魔物相手ならばヒヅキでも勝てるが、しかし神の相手までは出来ない。下位の神であればフォルトゥナは勝てるだろうが、それぐらい。
(まぁ、今はそんな事はどうでもいい。それよりも魔鉱石の採掘だ。何処かで鉱脈を見つけられればいいが……人工的に作るにも宝石を用意するのは骨だ)
そこまで考え、まだ急ぎでもないので一旦横に措くことにする。とりあえず魔鉱石はあまり使わない方向で行く事にする。
そう結論を出したところで、時間まで過去視の制御に集中していく。
未だにその膨大な魔力と情報の本流を御するには骨が折れるものの、直前まで感知魔法でその辺りを鍛えていたおかげで、今のところは最低限なんとかなっていた。
そして空が白んできたところで、エイン達が起きてきたので、朝食の準備をする。そのついでに水筒に魔力水を補充した。
それらが終わると、四人は朝食を済ませて片付けを行い、前日まで同様に山道を登っていく。




