名も無き村にて2
「少し朝の散歩に行ってきます」
ヒヅキはマリアに一言そう断りを入れると、アーイスの家を出て、村を歩き回る。
昨日のスキアの襲来で被害が出た場所と被害が出ていない場所の差は歴然で、特に酷いのはスキアとの戦闘があった辺りであった。その辺りの建物は粉々になり、地面は所々抉れ、まだ遺体さえ残っている状況は、壊滅的としか表現出来なかった。
ヒヅキがその辺りまで歩いてくると、まだ薄暗いというのに、もう瓦礫の撤去や遺体の移動などの片づけをしている人達が居た。
「……………」
ヒヅキはそれを離れた所から僅かな間眺めた後に、踵を返して今来た道を戻りはじめる。
(やっぱり俺はどこか狂ってるんだろうな………)
ヒヅキは歩みを進めながらも、先ほど見た光景を頭に思い浮かべながら、力なく首を横に振った。
全く心が動かなかったのだ。
普通、あんな悲惨な光景を目の当たりにすれば「可哀想に」とか、「何か助けることは出来ないか」など何かしら思うものなのではないだろうか?それこそ、だいぶ歪んでいるとは思うが、愉悦を覚える者だっているだろう。しかし……。
(俺は何も思わなかった。こんなこともあるさ、ぐらいしか頭に浮かばなかった。やっぱり、俺は壊れてるんだろうか?)
ヒヅキは何度も自問自答しながらも、そこまで落ち込んでいない自分に気がつく。
これは悩みというよりも、学術的な好奇心なのではないか、という考えが幾度も頭を過る。………いや、実際これは悩みなどという感情を持つ知的生物のそれではなく、その悩みというものを含めたヒヅキという存在自体の考察なのだろう。
(………いつか元に戻れるのだろうか?)
ヒヅキはそう考えてはみたものの、いくら考えても元に戻ろうが、このままの状態だろうが、どちらでも別に構わないという結論にしか至れなかった。それに、よく考えると元々の自分というものがどんなだったのかも、もうほとんど覚えてはいなかった。