人探し10
ヒヅキ達は昼休憩を終えると、片付けを済ませて移動を再開する。過去視で対象の足跡を追いながら、山道を進んでいく。
(むぅ。流石は時を越えて世界を視る事が出来る伝説級の魔法だけあって、魔力消費がかなりきついな)
昼も大分過ぎて直に夕方になろうかという時間になり、ヒヅキはそろそろ魔力がきつそうだと感じて、いつもより早めに野営の準備を行うことにして、山道横の森に入る。
すれ違うのが何とかといった狭さの山道では天幕は張れないが、山道横の森は木と木の間隔が大分離れているので、何とか天幕は張れそうだった。
魔力水を飲んで魔力を回復しながら先へ進んでもよかったのだが、どうせ直ぐに休憩する予定だったので、急ぐ旅でもないという訳でヒヅキは野営を選んだ。
カーディニア王国を出てから幾度か天幕は組み立てたので、手慣れた様子で天幕を張って野営の準備を済ませると、地面に敷いた防水布の上に腰掛けて夕食にする。
その際に魔力水を飲み、ヒヅキは魔力が急激に回復するのを実感する。昼食の時はまだ余裕があったからか、魔力水を飲んで魔力が回復しても、そこまで強くは実感できなかった。
(乾燥した地面に水が吸い込む感じといえばいいのか、この急速に満たされていく感じが魔力が回復しているという感覚なのか)
アイリスさんもこんな感じだったのだろうかとヒヅキは考えながら、魔力水をごくごくと飲んでいく。
(明日からはこまめに回復した方がいいかもしれないな)
魔力水が腹に溜まってきだしたのを感じて、ヒヅキは腰に下げていた、念の為にと残しておいた数少ない水筒りを手に取って、半分ほど入っているそれに魔力水を継ぎ足す。
そうして水筒の中身を満たすと、ふたを閉じて背嚢の横に置いた。
夕食を食べ終えると、いつもの様に話し合いをしてから、エイン達は天幕に入る。
見張りの当番であるフォルトゥナの横で、ヒヅキは過去視の扱いを確かめていく。
今日1日使用して、その膨大な魔力消費量を巧く制御しきれなかったと感じていたヒヅキは、能力の確認や調整と並行して、魔力操作も行う。
しかし、ヒヅキは気づいていない。過去視を得てから直ぐに使えている方が異常なのだと。
過去視とは、文字通りに過去にその場で起こった出来事を視る事が出来る眼だが、無条件で全てが視える訳ではない。ただ、ある程度制限は在るも、未来視よりは使い勝手がいい代物だ。
使い勝手がいいといっても、それを使用するのは神でも難しいほどに制御が困難で、普通人間では扱えないし、仮に扱えたとしても1秒と保たないだろう。
そんな魔法を半日近く使ったヒヅキは、それだけ魔力の扱いに長けているという事になる。もっとも、魔力の扱いだけであれば、ヒヅキはウィンディーネを越えるのだから、その結果も当然なのやもしれないが。
その過去視の扱いを調べていたヒヅキは、視る事が出来る範囲についてぼんやりと把握していく。といっても完全ではないので、まだまだ調べていく必要がある。
同時に行っていた魔力操作の方だが、こちらはあまり成果は無い。
若干燃費は良くなったとはいえ、1日使うのだとしたら、大量の魔力水が欠かせないだろう。
保有魔力量の方は、魔力水のおかげでほぼ回復した。おかげでお腹が魔力水でパンパンで、少し動くとお腹の中でちゃぽんちゃぽんと水の音が聞こえてくるほど。
それも朝には収まるだろうと考えながら、ヒヅキは改めて魔力の回復はこまめに行わないといけないなと自分に言い聞かせた。
そうして見張り番のフォルトゥナの隣で、ヒヅキが意識を内側に集中させながら魔法と魔力の操作に精神を傾けていくと、直ぐに朝になる。
エイン達が起き出したところでようやくその事に気がついたヒヅキは、眩しそうに細めた目を白んできた空へと向けた。木々の合間から覗く空は今日も天気がよさそうで、ヒヅキはそっと息を吐き出した。




