人探し9
ヒヅキは他の者達に入り口の方に戻る事を告げると、直ぐにその青白い幻影を追って移動していく。
その青白い幻影には触れることが出来ないようで、重なるように移動しても、すり抜けるだけで何かある訳でもない。幻影が消える訳でも、煙のように揺らぐわけでもないようだ。
もっとも、ヒヅキ以外にはそれは視えていないようなので、本当に幻のようなモノなのだろうが。
背を丸めるようなぎこちない歩き方の青白い幻影の後を追いながら遺跡の外に出ると、その幻影はヒヅキ達が登ってきた方角とは反対側へと向かって、山道を更に進んでいくのが判った。
その幻影に従って、ヒヅキ達は山道を進んでいく。
ヒヅキは幻影を追って山道を進んでいくが、しかしそれに夢中にならないように気をつけつつ、エイン達の方も気にかける。
そろそろ太陽が中天に差し掛かろうとしていたので、昼休憩にする事にした。幻影は逃げないので焦る必要はないだろう。まだ消えそうな感じもしていない。
ヒヅキの提案で一行は昼休憩を行う。
山道横に移動して防水布を敷いたりと準備を終えて昼食を摂っている間、ヒヅキは新しく手に入れた魔法について調べていく。
しばらく行使していたからか、何となくその魔法について解ってきていた。過去視とでも言えるその魔法についてヒヅキが調べていると。
『何かありましたか? ヒヅキ様』
隣に腰掛けるフォルトゥナから声が掛かる。
『ん? どうして?』
『急に山を登り始めましたので、何か見つけたのかと存じまして』
『ああ……』
フォルトゥナの言葉に、それは疑問に思うかと自分の行動を振り返り納得すると同時に、説明すべきかどうか少し悩む。しかし、直ぐにフォルトゥナであれば大丈夫かと、大まかに説明を始めた。
『新しい魔法を修得してね。それで対象が辿った道が判ったんだよ』
『流石ヒヅキ様ですね! それで、どういった魔法なのでしょうか?』
『んー……何と言えばいいのかな。その場で過去に何があったかを少し読み取れる魔法とでも言えばいいのかな』
『そんな凄い魔法が!』
『フォルトゥナはそんな魔法について聞いた事はないの?』
『はい。過去を読み取る事が出来る魔法など初めて聞きました!』
『そうなのか。似たような魔法も知らない?』
『似たような、ですか……そうですね、魔法かどうかは不明ですが、未来を予知する力の話は聞いた事があります』
『未来予知? どんな力なの?』
『そのまま未来に起こる出来事を予知するというモノではありますが、どれぐらい先の事かはバラつきがあり、数秒後から数年後まで予見したと聞いております。ただ、それがどの時の出来事かまでは分からない事がほとんどらしく、事が起こってやっと理解出来るとか』
『それはまた使い勝手が悪い力だね』
と答えつつ、ヒヅキは自分の過去視もどれぐらい前の出来事なのかは分からないなと、内心で苦笑いする。
『はい。ですが、話自体は幾つか伝わっているのですが、実在したかは分かりません。少なくとも、現在その力を持つ者は居ないかと』
『そうなのか。まぁ、居ても使いづらいだろうけれど』
『それ以外ですと、記憶に御座いません。時を超えて作用する魔法など伝説の類いの魔法かと』
『それか表に出てこないか、か』
『はい。それだけの魔法です。知られれば騒ぎになるかもしれませんから』
『まぁ、確かに』
過去や未来が視える力というものが災いを呼ぶのは想像に難くない。ただ、幸いと言うべきか、地味な魔法なので気づかれにくい。
『だから、この事は秘密にしてね?』
『この命に代えましても他言は致しません!』
『ありがとう』
フォルトゥナの誓約を聞き、ヒヅキは感謝の言葉を返す。
『それで、何を視たのですか?』
『探している相手だと思う者の影とでも言えばいいのかな? 要は足跡が視えるんだよ』
『そうでしたか。それで山を』
納得したというように頷くフォルトゥナ。
その頃には昼食を終えて少し経っていたので、ヒヅキはそろそろ昼休憩を終えようかと口を開いた。




