人探し8
遺跡の入り口周辺を軽く調べた後、一人ずつ順番に遺跡の中に入る。
最初にヒヅキが内部に入ると、光球を出して周囲を照らす。相変わらず壁には絵が描かれているが、時間が経っても遺跡内部はそこまで変化は無い。
それに今調べるのは絵ではなく、どちらかといえば地面。壁も調べてはいるが、今のところ何も痕跡は発見出来ていない。
地面には苔が生しており、最近誰かがここを通った痕跡は見られなかった。
因みにここに派遣されているはずの兵士達だが、エインの話によれば、幾つかの危険とされている遺跡を除き、兵士達はガーデンに戻しているらしい。それだけ人手不足という事か。
光球で周囲を照らしながら注意深く探索したヒヅキだが、棺のような場所に到着しても何も発見できなかった。
棺のようなモノはふたがされており、中身が無くなっても存在感を発している。
ヒヅキは丁寧にそのふたを横にずらすと、改めて中の様子を探っていく。
今回は感知魔法も使いながら調査していると、後から続いてきたエインとプリス、フォルトゥナも棺を囲んで目を向ける。
ウィンディーネは少し離れたところで、そんな一行を眺めていた。
感知魔法の効果範囲を狭めて展開しながら、ヒヅキは棺を細部まで調べていくも、以前調べた以上の事は判らない。
「………………ッ?」
そうして調べていると、久方振り違和感を覚える。しかし今回は、以前までの引っ掛かるような違和感ではなく、何か間違いを犯してしまったかのような、漠然としたモノ。
しかし、何か選択を誤っているようなその気持ちの悪い感覚に、ヒヅキは僅かに眉根を寄せて、その原因を探る為に目を動かす。
「………………」
周囲を確認したり棺の中を探ってみるも、何も無い。全員の様子を窺ってみるも、おかしな行動をしている者は居ない。
(何なんだ?)
そう思いながら棺の方に視線を戻すと、視界がぶれるような感覚を覚える。それと同時に、『ああ、やっとか』 という男の声が聞こえた気がした。
幻聴のような微かな声だったが、その声に覚えがあったヒヅキは、現在感じている違和感の正体に何となく思い至った。
(新たな魔法、か)
どうやればいいのかは分からないものの、それでも以前の話に出てきた新たな魔法の事だと直ぐに理解したヒヅキは、どうにかそれが判らないだろうかと、調べ物をしながら色々と試していく。
(もしかしたら、これが現状に対する光明になるかもしれないからな)
そう思いながらじっと棺の方に目を向けていたヒヅキの視界が突然揺らいだかと思うと、何かが棺の中に現れる。
「!?」
急に現れたそれにヒヅキは一瞬眉を動かしたがそれだけの反応だけで、周囲の反応を窺って誰も何も反応していないのを確認してから、その突然現れた何かへと目を凝らした。
「………………」
それは青白い人型の何かで、ぼやけていてはっきりとは分からない。それでも、棺の中で横になっている様に視えるので、もしかしたら探している相手の姿なのかもしれない。
(ここで過去に在った出来事が視えるようになった、という事なのだろうか?)
まだそれだけだが、ヒヅキはそう推測すると周囲にも目を向ける。
周囲には青白い物体が幾つも在り、通路から地下へと続く階段の方へ移動するように出現している青白い何かも見受けられる。
それは連続しているとはいえ、少し間隔が空いているので、様々な格好で静止していた。
そのひとつの流れを目で追ったヒヅキは、それが以前来た自分達である事に気がつく。
(ふむ。青白い物体は多いが、それでも経った時を思えばあまりにも少ない。これが過去を視る事が出来る眼だとして、それはどれぐらい過去まで遡れるのか、視る事が出来る過去は任意で変える事が出来るのだろうか?)
力に対する疑問を覚えながらも、ヒヅキは棺から通路を入り口の方向へと向かって進んでいく人型へと視線を向ける。
(入り口方向へと進んでいるあれを追えば、何処へ行ったか判るかも?)
色々と疑問はあるものの、それはひとまず全て横に措き、ヒヅキはその青白い幻影を追う事に決めた。
 




