人探し5
かつて、ウィンディーネがヒヅキを殺すという話を、ウィンディーネ自身がヒヅキに語った事があった。
その事を頭に思い浮かべつつ、ヒヅキは隣に座るウィンディーネから少しでも距離を取ろうと身体を反対側に傾ける。
「あら?」
それを見たウィンディーネは、面白そうな笑みを浮かべてヒヅキの方に身体を倒す。
「そんなに嫌わなくてもいいじゃない?」
「ウィンディーネの事が嫌いなのは前々から伝えていると思いますが?」
「ええ、聞いているわよ。だからこそ、こうやってくっついているんじゃない?」
愉悦の滲む人の悪い笑みを浮かべたウィンディーネを見て、ヒヅキは相変わらずだと舌を打つ。
そんな反応に、ますますウィンディーネは機嫌を良くする。悪循環である。
かといって、逆に喜ぶなりして受け入れても、ウィンディーネは楽しげな反応を返すだけ。だからと崇めてもまた同じだろう。結局のところ、ウィンディーネにとってヒヅキの態度などおまけ程度でしかないのだ。
とはいえ、ヒヅキ以外が同じような反応を返したところで、ウィンディーネは興味を抱かない。それはヒヅキだから興味を惹いているに過ぎないのだから。
しかし、それは別に恋慕などではないし、まして友情などでは決してない。どちらかといえば愛玩とでも呼べばいいのか、いやそれよりも玩具に向ける感情に近い。
ウィンディーネにとって、ヒヅキなど正直どうでもいいぐらいのちっぽけな存在だ。殺そうと思えば簡単に殺せるし、操ろうと思えば操る事も容易い。しかし、その中身には興味があった。
ヒヅキの中に住まう者達。それはウィンディーネにとって懐かしくもあるが、それでも多少苦戦する程度。一気に来られては負ける可能性が出てくるも、それはあまり高くない。何より身体はヒヅキ一人分なのだ、それはありえない話。
なので、ウィンディーネはそこにも多少の興味程度しかない。それでもヒヅキに付きまとうのは、その中身にウィンディーネでは理解出来ない何かが居るから。
それが相手では、力を増した現在のウィンディーネでさえも勝てないだろう。それが外からでも判ってしまうのだから、興味を持つなという方が無理な話。
ウィンディーネは、この世の者達に神と崇められる一柱ではあるが、その中でも格が違う存在にして、変わり者であった。
現在の全ての神を生み出した本当の神を除けば、ウィンディーネと同格の存在は三柱のみ。その中でも、ウィンディーネは上位に位置するが、ウィンディーネはその地位を直ぐに捨てて服わぬ神となった。
しかし、神のくびきというものは結構強固だったらしく、離れたはずが未だにウィンディーネでは完全には抗いきれないほど。
だからこそ、ウィンディーネは求めていた。神を殺せる者を。
しかし、長きにわたり世界を探せどもそんな者は居らず、それが転じて力への憧憬のような渇望を見出し始めていた。そんな折に出合ったのがヒヅキであった。
ウィンディーネはヒヅキという人間には全く興味が無かったが、その強大な力の宿主として、次第に興味を抱き始めていく。
その中身がある以上、ウィンディーネはヒヅキに手出しできない。何が起きるか分からない以上、殺そうと思えば手痛い反撃をくらうかもしれないし、操ろうと思えば跳ね返されてしまうかもしれない。
なので、ちょっかいを出してはいるが、実は何もできなかったりする。そんなつもりもないのだが……今のところ。
何でもいいので何か欲望はないかと調べはしても、反応はいまいち。観察しても変わっているぐらいしか判らない。ただ、時折妙に勘がいいのが気になってはいるが。
そうした日々を過ごしていたのだが、少し前にウィンディーネが神から力を得たのは、ほぼ神からの強制であった。
真意は不明。しかし、ろくな事ではないだろう。
ウィンディーネとしては、未だに神の支配から完全に抜け出せていない事に苛立ちを覚えていた。
その後にヒヅキに絡んでいるのは、八つ当たりのような部分がある事も否めない。そのおかげで、神に対する苛立ちは大分収まっていた。絡まれた方にとっては、迷惑以外の何物でもないが。




