表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
682/1509

人探し3

 分からないというのは何とも気持ち悪いものだ。と、ヒヅキはウィンディーネへと視線を向けながら心の中で呟く。

 視線の先の光景は、フォルトゥナから話を聞いた前と変わらず、吐き気を催すほどにおどろおどろしい。

 未だ動かず月明かりを浴びているウィンディーネは、一見とても無防備な様に思えるが、それはそう見えるだけで実際は違うのが、ヒヅキには何となく分かった。ヒヅキの方を向いていなくとも、その纏わりつくような不快な視線を感じていたから。

 それに、元より力の差がありすぎるだけに、ヒヅキには何もできない。それに加えて、現在更に力が増している最中なのだからお手上げである。

 ヒヅキは倒せないまでも、撃退する方法について思案する。封印でも何でもいいので、ウィンディーネを遠ざけたかった。しかし、そんな方法は知識の中には無いし、力だって足りない。それに、そんな方法は今までだって考えていたが見つからなかったのだ、そんな急に思いついたりはしない。

 そんな事を考えていたからだろうか。

 ずっとウィンディーネに目を向けていたヒヅキだったが、少しだけ、ほんの少しだけその考えに意識を向けてしまった。

 それは瞬きするよりも短い間だったし、それでも視界にずっとウィンディーネを捉えていた。だというのに。

「あら? そんなに難しい顔をして何を悩んでいるのかしら?」

 ヒヅキの真正面からウィンディーネの声が届く。吐息が掛かる距離。呼吸をする僅かな動きで鼻と鼻が触れそうなほどの至近距離。

 ヒヅキの目はウィンディーネの瞳の奥のみを映す。ウィンディーネもまた同じだろう。

(あの時と同じだな……)

 人生最大の失態である最初にウィンディーネに見つかった時の事を思い出したヒヅキは、あの時も僅かな隙を晒してしまったが故に見つかったのだったなと思い出し、自分の学習能力の低さを内心で恨む。

「ウィンディーネがより面倒くさい存在になったようなので、どう対処したものかと悩んでいたんですよ」

 普段通りの口調でそう言いながら、ヒヅキはウィンディーネの紺碧の瞳を毅然として見詰める。

 まるで深い湖の中を覗いているような吸い込まれるような深さの青色だが、ヒヅキには深淵を無理矢理覗かされている様にしか思えない。

「あら、そうなの? よく分かったわね」

「それで?」

「何かしら?」

「なん為に力を蓄えたので?」

「あら? ヒヅキには判ると思ったのだけれど?」

 何処か試すようでいて、本当に不思議に思っているような声音でウィンディーネはヒヅキに問い返す。

 そのウィンディーネの問いにヒヅキは考えると、心底嫌な顔をしながら答える。

「自惚れでなければ、私を殺す為ですか?」

 ヒヅキの返答に、ウィンディーネは目を細めて笑みを浮かべた。

「正解よ。流石はヒヅキね」

「………………そんな必要はないと思いますがね」

 既に絶望的なまでに力の差があったので、ヒヅキは呆れた声でそう返す。

 しかしウィンディーネはそう思っていないのか、不思議そうな声音を出した。

「そうかしら? 過小評価は良くないわよ? それとも自分を卑下しているのかしら? そういうのはあまり感心しないわよ?」

 途中から心配するような声音に変わったウィンディーネに、ヒヅキはため息を吐きそうになったが、ウィンディーネが近すぎる為に自重する。

「事実だと思いますがね」

「ふふ。そんな事はないわよ」

「……そうですか。それで、そろそろ離れてくれませんか?」

「あら? もっと近寄ってもいいのだけれど?」

「邪魔なので離れてください」

 ウィンディーネの戯言に、ヒヅキは冷たい声音で応える。それにウィンディーネは楽しげに笑いながら離れた。

 ヒヅキから離れたウィンディーネは、何も身につけていない身体のまま伸びをすると、薄手の服を構築する。

 そんなウィンディーネへと警戒する目を密かに向けながら、ヒヅキはそっと鳥肌の立った腕を服の上から撫でるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ