人探し2
ヒヅキは周辺の警戒をしながら、湖の方で何かをしているウィンディーネに目を向ける。
傍から見たままを表現するのであれば、水浴だろうか。一糸挂けずに湖の中に立っているが、ヒヅキの前ではわざと身体の線を見せつけるよな薄着姿が多いので、大して違いは無い。
そもそも服自体ウィンディーネが自ら創り出しているので、服の形態など思いのままだし、着る着ないもまた自由で、服の着脱など一瞬で行える。
ヒヅキはそんなどうでもいい事に興味を向けることなく、脚の付け根辺りまで水に浸かったまま月に向かって顔を向けて立っているウィンディーネへと、訝しげな目を向ける。
絶世の美女が水浴をしながら月光浴もしているようなその光景は、まるで絵画が具現化したかのように神秘的だが、ヒヅキは何やら得体のしれない気味悪さを感じていた。
その感じている気持ちを一言で表現するならば、吐き気がする。だろうか。
一般的に情欲さえ起きないほどに美しいだろうその光景は、ヒヅキの目には酷く歪で、ともすれば血生臭ささえ漂ってきそうなほどに気持ちの悪い光景に見えた。
その為、ウィンディーネの様子を警戒しながら観察しているヒヅキの眉は不快げに歪み、目には嫌悪の光が宿っている。
しかし、そんなヒヅキの警戒など無意味だと嘲笑うように、ウィンディーネは月を見上げたまま動かない。
ヒヅキはその様子を眺めながら、ちらりと月の方にも目を向けるも、そこには不快な光を放ちながら少し欠けている月が浮かんでいるだけ。
ウィンディーネの方に目を戻しても、変わらず月の光を浴びているだけで、何か動きが在る様子もない。
そもそも、ヒヅキにはその様子の何に気持ち悪さを感じているのかが判らない。しかし、やはりいくら見ても、その光景はどこまでも禍々しく思う。
『ヒヅキ様?』
そんなヒヅキの様子に、フォルトゥナが窺うように名前を呼ぶ。
『ん?』
『如何なさいましたか?』
『いや……何でもないよ』
原因が判らない以上、説明のしようが無いので、ヒヅキはそう返す。
それにフォルトゥナは『そうですか』 と心配そうに口にすると、ウィンディーネの方に目を向けて言葉を続ける。
『あの殺戮者が穢れた祝福を受けている事を気に病んでいるのではと勘ぐってしまいましたが、心配のし過ぎだったようですね。申し訳ありません』
『穢れた祝福?』
ヒヅキはウィンディーネから視線を外すと、どういう意味かとフォルトゥナの方に顔を向けた。
『はい。あの月の向こう側に居る何かから力を得ているようですので、それが御不快なのではと』
『そうか……道理で。それで、月の向こう側に居る何かについてフォルトゥナは知っている?』
『いえ。不快で強大な力は感じますが、それだけです』
『そっか。しかし、ウィンディーネは力を得て何をするつもりなのか』
フォルトゥナには何が視えているのか気になったヒヅキだが、それよりも、ウィンディーネの動向の方が気になった。
『そこまでは判りませんが、あの殺戮者の事です。ろくな事ではないでしょう』
そのフォルトゥナの返事に、ヒヅキは気になっていたもう1つの言葉について尋ねる。
『フォルトゥナは何故ウィンディーネの事を殺戮者と言うんだい?』
今までそんな呼び名はしていなかっただけに、とても気になった。
『血の臭いが、するのです』
『どういう事?』
『元から薄っすらと臭ってはいましたが、それでもそこまではっきりしたものではありませんでした。しかし、あの穢れた祝福を受け始めてからというもの、鮮血を大量に浴びたかのように鮮明に臭うのです。血のような独特の臭いが』
『ふむ。なるほど』
ヒヅキにはそんな臭いはしないものの、先程からそんな感じはしていたので、なるほどなと納得して頷く。
しかし、だとしたら何故力を得たら急にそんな臭いがしだしたのかという疑問が生まれるが、フォルトゥナはその原因までは判らないようであった。




