再会118
ヒヅキの認識としては、シロッカスの好意に甘えているだけというモノだったので、尚の事。シロッカス同様に報酬というより対価は受け取って欲しかった。
とはいえ、シロッカスの認識としては、ヒヅキ達に頼んで泊まってもらっているといったものなので、その溝は埋まりそうもないが。
「勿論だとも! むしろこちらから頼みたいほどだよ!」
ヒヅキの事を気に入っているシロッカスは、笑みを浮かべながら歓迎を表す為か、手を広げながらそう口にした。
「それでしたら、お言葉に甘えてまた挨拶に伺います」
「ああ。その時はまた是非泊っていってくれ」
シロッカスは嬉しそうに頷くと、そう告げた後に少々真剣な表情になる。
「それでだが――」
口を開いたシロッカスは、ちらりと一瞬窓の方に目を向けた。
「もう夕方も近い。これからガーデンを出るとなると、門に着くのは日が暮れてからとなってしまう。それでは門が開いていないので、何処かで宿を取るか門の近くで夜を明かす事になってしまう。だからどうだろうか? 今日のところはこのまま当家に泊って、明日の朝に門に向かうというのは?」
「なるほど」
ヒヅキは小さく頷きながら、僅かにエイン達の方に目を向ける。先程言っていた通り、これもこの部屋に自分達を案内する前に話し合ったのだろうとヒヅキは考えつつ、内心で自分とフォルトゥナは密出国するから夜の方が都合がいいのだが、という思いが浮かぶ。
とはいえ、そんな事を正直に話すのもどうかと思い、ヒヅキは内心で苦々しく感じながらも、エインとプリスは夜は出られないからと自分に言い聞かせる。
「……そうですね。分かりました。では、もう一晩お世話になります」
「ああ、勿論だとも。それは気にしないでいいよ」
しかし、そんな思いは少しも表には出さずに、代わりに申し訳なさそうな顔を浮かべてシロッカスにそう告げると、シロッカスは笑ってそう返した。
それからシロッカスは侍女に指示を出してヒヅキ達とエイン達の夕食の用意と、エイン達の寝床を用意させる。
侍女が諸々の準備で外に出た後、代わりの侍女がやって来る間、ヒヅキはシロッカス達と軽い雑談を行う。
それから程なくしてやってきた侍女に案内されて先にヒヅキ達が部屋を出ると、片付けを済ませたばかりの部屋に戻っていく。エイン達は部屋の用意が整うまでシロッカスと話をするらしい。
部屋に戻ったヒヅキは、応接室に戻る侍女の背に目を向けてから部屋に入る。
『もう一泊、という事になったね』
背嚢を机の上に置いたヒヅキは椅子に腰掛けると、長い息を吐く。
『やはり邪魔なものです』
同じようにして隣に腰掛けたフォルトゥナが、エイン達への悪感情を隠しもしないでそう返す。
『はは。まぁそうなんだけれど、約束してしまったからね…………ホント、なんでしたのやら』
未だにあの時の自分の判断に疑問を抱くヒヅキは、もう一度長く息を吐き出す。
『秘密裏に消しますか?』
そんなヒヅキの様子を見たフォルトゥナが、天気の話題でも振るような気楽さで問い掛ける。
『いや、それはそれで面倒な事になりそうだから要らないよ。本当に邪魔になったら置いていくればいいし……その前に直ぐにここに帰ってくれればいいんだが』
疲れたように頭をかくと、ヒヅキは天井へと目を向けて、そのまま何をするでもなくボーっと天井を眺める。
その間、フォルトゥナはそんなヒヅキの横顔をじっと眺め続けていた。
夕方前からそんな静かな時間が流れ、ヒヅキは日暮れ前に顔を戻す。
「そろそろ夕食の時間か」
ぽつりとそんな独り言を零すと、ヒヅキは二人分の容器と水瓶を取り出し、フォルトゥナに飲むか聞いた後にそれに魔力水を注いでいく。
フォルトゥナに片方の容器を渡した後、ヒヅキは容器に注がれた魔力水へと目を落とし、少ししてから何かを吹っ切るように一気にそれを飲み干した。




