再会115
翌朝。
ヒヅキはいつも通りにまだ暗い内に目を覚ます。
目を覚ますと、まずは周囲の様子窺った後に、光の入り具合で時間を確認する。
それが終わると、感知魔法の訓練を始めていく。
かなり緩やかながらも一応の進展が見られるので、ヒヅキは方向性は間違っていないのだろうと思っているのだが、やはりその進展の鈍さは不安にさせられる。日に数センチメートルぐらいしか感知範囲が広がらず、酷い時にはミリ単位でしか拡がってくれない。稀に10数センチメートルほど拡張される事もあるのだが、その法則性は分かっていない。
それでもめげずに、日々時間が出来れば訓練をしているヒヅキ。エルフの国に居た頃に比べれば、かなりの進歩だ。あの頃は全く探知が出来なかったのだから。
そうやって周囲を探りながら時間を過ごしていると、部屋に射す光量が増えてくる。それでも普段よりも少ないところから考えるに、外は曇りなのだろう。
(いい旅立ちの日だな)
太陽が完全に隠れるほどの曇りが好きなヒヅキにとっては、曇りは最高の天気であった。次点で雨だが、室内から見る分にはよくても、旅をするには雨は濡れるので面倒くさいのが困りもの。
外の様子を見てからそんな事を考えると、ヒヅキは胸元で穏やかな寝息を立てているフォルトゥナを起こす為に、名前を呼びながら身体を揺らす。
『フォルトゥナ、フォルトゥナ!』
ヒヅキ以外の者がフォルトゥナの名前を呼ぶと、途端にフォルトゥナが不機嫌になってしまうので、ヒヅキはフォルトゥナをフォルトゥナと呼ぶ時は、周囲に聞かれないようにする為に遠話を使う。それは起こす時も変わらない。
そうやってヒヅキがフォルトゥナを起こすと、フォルトゥナは直ぐに目を開けて起き上がる。そう後は朝の挨拶を交わす。
『おはようございます! ヒヅキ様!』
『おはよう。フォルトゥナ』
朝の挨拶を交わすと、ベッドから降りて朝の支度を済ませる。
それが終わると、朝食の時間まで窓際の椅子に腰掛けて、用意した容器に同じく用意した水瓶から魔力水を注いでそれを飲む。
ヒヅキは朝のガーデンの光景を眺め、今日にもガーデンを発つんだなぁ、と今日の予定を思う。
午前中はエイン達を待つので、朝食を摂る以外には特に用事は無い。アイリスへの魔法講義も昨日の内に完了しているし、旅の支度も既に済んでいる。
何か足りない物はと考えても、保存食ぐらいしか思い浮かばない。もっとも、それもそこまで心配するほど減ってはいないし、これから向かう予定の遺跡までの道中には森もある、時期的には実りは少ないだろうが、無い訳ではない。
(ついでにウィンディーネを置いていきたいところだが)
その森はかつてヒヅキがウィンディーネと出会った森で、それから長いことヒヅキはウィンディーネに付きまとわれている。なのでついそう思うも、それは叶わぬ願いなのはヒヅキが一番よく理解している。
(まぁそれはそれとして、あの場所に実っていた果実はどうなっているのだろうか? 今でも実っているのなら収穫しておきたいところだが)
ウィンディーネと出会った際に紹介された果実が大量に実っている場所。そこはウィンディーネが管理していたようだが、それから話を聞けばあれは一時的なものだったらしく、それでも果実を実らせていた木々は元々そこに生えていたらしい。
しかし、大量に果実が実っていたのはウィンディーネが管理していたという部分が強いらしく、現状は普通の木と何ら変わらないとか。であれば、大分冷えてきたこの時期に果実が実っている可能性はあまり高くはないだろう。
ただ、ヒヅキは植物についてあまり詳しくは無いので、確実なことは言えないが。
魔力水を片手にヒヅキがそんな事を考えていると、侍女が朝食の用意が整った事を告げに部屋へとやってきた。




