再会111
「………………因みにだが、君はソヴァルシオンを襲撃しているスキアが何処から来ているのかは知っているかい?」
何処か探る様な声音のエインの問いに、ヒヅキは頭を横に振る。
「いえ。存じ上げません。ソヴァルシオンがスキアに襲われているのも、話で聞いただけですから」
そういったヒヅキの顔を、一瞬疑わしそうな目で見たエインだったが、直ぐに諦めてため息を吐く。
実際、ヒヅキは散発的にソヴァルシオンを襲撃しているスキアが何処から来ているのかは知らない。話もシラユリやシロッカスなどから聞いただけで、ヒヅキがソヴァルシオンの前を通った時は平和であった。
ただ、それでも予測は出来る。もっとも、やはりヒヅキには話すつもりが無いのだが。神の気まぐれなど、話したところでしょうがない訳でもあるし。
そもそもスキアというのは、常人どころか冒険者をもってしても知覚が困難なほどに一瞬で移動して近づいてくる存在だ。それを知覚するには、目に頼らない感知方法が必要になるが、それが無い場合は襲撃してきた瞬間に認識して反応するしか方法はない。
なので、感知方法が無い冒険者は、砦などを攻撃させている間にスキアへと攻撃するのが一般的な対処法になっている。スキアは何故か、砦などの防衛施設はしっかりと攻撃する。スキアがその気になれば防壁ぐらい軽く越えられるというのにだ。
しかしこれも、スキアを操っている者の趣味趣向を鑑みれば、納得できるというもの。要は愉しみたいだけ。
そんな性格の神の気まぐれなど、いくらエインといえども信じないだろうし、ヒヅキはスキアの存在を感知出来るとはいえ、あまり遠くの存在を察知できるほど高性能な感知能力ではない。そういうのはフォルトゥナの役目だ。
そういう訳で、本当にヒヅキはスキアが何処から来ているのか知らないので、疑われても答えは変わらない。もしかしたらフォルトゥナならば出所を掴んでいるかもしれないが、わざわざ訊くほどの事でもないだろう。
「そうか。まぁ、今のところ大した被害を出さずに撃退出来ているが、少しずつ防壁は削れている。補修も間に合ったり間に合わなかったりだが、いずれ補修に必要な材料が足りなくなるだろうな。そうなったらソヴァルシオンとてそう長くは保たないだろう」
そうなれば次はガーデンだろうなと、小さく付け加えたエインは、憂鬱そうな表情を浮かべる。しかしそれも少しの間だけ。
「とはいえ、それに対処するのは現国王や次期国王だ。既に一般人となった私の関知するところではないがね」
そう言って小さく笑ったエインは、少し幼い表情をしていた。
「まぁ、今回は時間もそうはない。最後に君に訊きたいのだが、今回の出発はいつにするんだい?」
雰囲気を気楽なものに変えたエインは、そうヒヅキに問い掛ける。
それを受けてヒヅキはどう答えたものかと考え、もうすぐアイリスも魔法を修得出来そうだったなと思い、出発する時刻を予測して答えた。
「そうですね……2、3日中には発とうかと考えています」
「ふむ。なるほど。それぐらいあれば、ギリギリ間に合うかもしれないな」
「間に合う、ですか?」
「身辺整理というか、ガーデンを離れる前にやっておくべき事がまだ若干残っててな。それも後1日か2日もあれば終わりそうだったのだよ」
「……そうでしたか」
それは残念だとは言えず、ヒヅキは頷きを返す。
「それが終われば、君が発つ前に私もこちらにお邪魔するとしよう」
「はい?」
「なに、シロッカス殿にはこれから話を通しておくさ」
「いえ、そういう事では……」
ヒヅキが何と言えばいいかと悩んだ僅かな間に、エインは立ち上がりヒヅキに別れの挨拶を行う。
「それじゃあ、また近いうちに来るよ」
エインはそれだけ告げると、ヒヅキの返事も聞かずに部屋を出ていった。これからシロッカスのところへ行って先程の話をするのだろう。それを思い、ヒヅキはそっと疲れた息を吐き出した。




