再会109
フォルトゥナとの話は、別に難しい話ではない。
簡潔に述べるならば、エルフの国がスキアに滅ぼされたが、フォルトゥナは幾つかの偶然が重なり生き残った。
国が亡んでこれからどうしようかと途方に暮れながらも、とりあえずエルフの国を出ようとしていたフォルトゥナと、そろそろガーデンに戻ろうと考えていたヒヅキが出会い、たまたま知り合いだったので一緒に旅する事になった。というだけの話である。
そんな嘘とも言い切れない説明を、スキアやエルフの国の情報を交えながらヒヅキがエインに話すと、エインは少し考え込むような仕草をみせてから、納得したように頷いた。
「なるほど。そんな理由が。エルフの国が亡んだ事は知っていたが、詳しい話が聞けて良かったよ」
「お役に立てたのであればよかったです」
エインの言葉に、ヒヅキは笑みを浮かべて返す。
「しかし、流石はエルフといえばいいのか、他人に魔法を教えられるほどに精通しているとはな」
魔法というものは、一般的な人間から見れば特殊技能だ。使えれば便利だろうなとは思っても、修得しようなど冗談でしか考えないほど。
というのも、そんな魔法を使えるのは主に冒険者だが、その冒険者でも、他人に魔法を教えられる者はそう多くはないのだ。珍しいというほどではないが、貴重な人材ではある事には変わりはない。
まぁ、一般人が魔法に興味を示さないのはそれだけが理由ではないのだが。
そういう訳で、他人に魔法を教えられるというだけでも需要は在る。
それとは別に、エルフは種族の特徴として魔力が視えるのだが、だからといって他人に魔法を教えられるほどに精通している訳ではない。視えると知っているは別なのだから。
それが出来るという事は、魔法に関する知識も有しているという事。エルフはなまじ魔力が視えるだけに、魔法に関して知識欲が乏しい部分がある。なので、教師となり得る人材は、人間よりもエルフの方が少ない。
もっとも、それでも魔力が視えるという利点の差はかなり大きいようで、魔法の理解の深度はエルフの方が人間よりも遥かに上。
ただでさえそれだけの差がある中で、教師足り得る人材のエルフ。もしかしたら研究者かもしれないエルフなど、得難い人材であると同時に、脅威でもあった。
エインは感心と共に警戒をしてはいたが、後者は表に出さないように努力してもいた。しかし、それでもヒヅキは理解したようで、軽く肩を竦める。
「まぁ、彼女に関しては問題ありませんよ。それに、今では貴重なエルフですから、そう警戒せずに」
「……貴重、か。確かに国が亡びた以上そうなのだが、我らもそうなりかねないというのを忘れないようにしなければならないな」
「スキアの脅威は未だ近くに在りますから」
ヒヅキの言葉にエインが現状を思い出したように口にすると、隣でプリスが頷いた。
「やはりスキアの襲撃は在りますか?」
「ああ。ソヴァルシオンについては訊いたか?」
「はい」
「そうか。スキアの襲撃に関しては、現状ソヴァルシオンだけだ。しかしあまり知られてはいないが、目撃情報は各方面の国境近くでもあるのだよ。それについては知っているかい?」
「いえ。そちらについては初耳です」
「そうか。カーディニア王国の現状について少し話すとだな、現状はガーデン以南しか人が住んでいないと言っても過言ではない。国境の警備もままならないほどだ。しかし、そんな現状でも何処からも侵攻は受けていない。それがどういう意味かは君ならわかるだろう?」
「他国もスキアの相手で手一杯。もしくは亡んだ」
「そういうことだ。一部内情が判らない国もあるが、概ねそんな感じだ。未だに侵略戦争を仕掛けているのは獣人の国ぐらいだろう。それもかなり規模が縮小されたようだから、他人事ではないようだが」
「………………」
「亡んだ国も幾つも在る。先程のエルフの国もだが、少し前にドワーフの国も滅んだし、人間の国もカーディニア王国以外はほとんど死に体だ。それでいてスキアを追い返せていない……冒険者の中でも実力者が在籍している国でも、だ。つくづくあの時に君が居てくれた幸運を感謝しているよ」
エインは軽く肩を竦めて冗談めかしてそう言うも、その声音には冗談っぽさがあまり感じられなかった。




