再会108
「ああ。外から大量に流入したみたいでな、今は入国審査の際に厳しく荷物を調べてはいるが、それでもまだ何処からか入ってきているらしい。最初に入った薬物についても、一部押収出来ただけだ」
そう話すエインの横で、プリスが僅かに顔を曇らせた。よく見れば、二人の後ろに立つ女性も苦い表情を僅かに浮かべている。
エインが調べる際に使っている諜報員は様々居るが、その中でも御膝下のガーデン内に関してはプリスの部隊が中心になって調べていた。
それを思い出したヒヅキは、なるほどと納得しつつ、プリスの部隊からよく隠せているなと、相手の手腕に感心する。
(…………しかし、大量の薬物ね)
ヒヅキはエインの話に頷きつつも、頭の中でガーデンの様子を思い浮かべながら、1ヵ所それらしき場所が在ったなと思い出す。もっとも、やはり話すつもりはないのだが。
「それで、入国審査の際に荷物検査が厳しかったのですね」
特に商人など大量の荷物を持ち込む者の検査は厳しかったようだ。個人では持ち物検査と身体検査がそれなりに厳しく行われているが、以前ほどではなかった。ただ、質問に関してはやたらと細かく訊かれたが。
「まぁ、一応な。そもそもこんなご時世で何処で栽培しているのやら。正直、再建で薬に逃げている暇なんてないのだから、しっかりして欲しいものだ」
呆れたようにそう言うと、エインは疲れた息を吐く。
「もっとも、蔓延しているというほどではない。薬物を使っている者達も限られているからな」
「……最近ソヴァルシオンから流れてきた者達ですか?」
「おや? よく知っているな。相変わらず君の情報網は驚かされるよ」
目を丸くしたエインに、ヒヅキは僅かに苦笑を浮かべる。それはシラユリに聞いた話から推測したに過ぎない。彼らが住み着いている場所にも訪れたが、その印象もあっての事だ。
「あれらはソヴァルシオンでも厄介者だったらしくてな。仕事はあるのだからせめて働いてくれればいいのだが、その気もないようで」
困ったように頭を掻いたエインは、芝居がかった仕草で肩を竦めて困ったものだとヒヅキに伝える。
「そうでしたか。徴集してしまえばいいのでは?」
「それらを教育する者も監視する者も不足しているからな。今は新しい兵士の育成が先決だ。あれらはそれなりに数は居るのだが、隅で固まっている事が多く、そこまで目立っている訳でもないからな。監視だけに留めているよ。そもそも、それはもう私の仕事ではないからね」
「そうでしたか」
「ああ。大分時間が掛かってしまったが、引継ぎは大方終わったからな。そろそろやっと自由になれそうだよ」
肩の荷が下りたといった感じの疲れた笑みながらも、何処か晴れやかな表情のエイン。
「それで、君はいつまでガーデンに滞在している予定だい?」
「そうですね。まだはっきりとしている訳ではありませんが、数日中には発つかと」
「そうか。ギリギリ間に合ったといったところか」
「ええ、まぁ、そうですね」
「今回はこちらに非があるとはいえ、君は容赦なく私達を置いてガーデンを出ていくからな」
冗談めかしつつも、恨みがましくエインはヒヅキに目を向ける。
その視線を、ヒヅキは軽く肩を竦めて受け流した。
「まぁ、それはいいさ。それで? 手紙に在った新しく増えた同行者というのは?」
ひとつ息を吐き出すと、エインは諦めたようにヒヅキに問い掛ける。
「エルフの少女です。今は別室でアイリスさんに魔法を教えているところです」
「エルフの少女、か。それで、なんでまた一緒に旅をする事になったんだ?」
エインの問いに、ヒヅキは説明を始める。と言っても、他の者にも行っている説明と同じ説明なので、そろそろその話も馴染んできたような感じがしてきていた。




