再会107
朝食を終えて場所を移すと、フォルトゥナは魔法講義を始める。
二人が講義をやっている横で、ヒヅキは魔力水の準備を行う。
それが最近の日常風景。エイン達が来るのは昼過ぎという予定だったので、午前中は通常通り。
魔法講義の方は淡々と行われている。ヒヅキは魔法修得の為の修行がどれぐらい厳しいのかは知らないが、それでも現在フォルトゥナが行っているモノは厳しい部類に入るだろう事は何となく予想はついた。
もっとも、常に加減無しで魔法を行使していき、魔力が枯渇しそうになったら魔力水で強制的に魔力を回復して、再度魔法を全力で行使していくというのを1日中繰り返す修練は、誰が見ても優しいとは決して言わないだろうが。
しかしその厳しい修練のおかげで、アイリスの魔法修得速度は速い。本人の才能もあるのだが、やはり厳しい修練の成果でもあろう。
解毒魔法は前日の進展以降は何処か決め手に欠けるといった感じで、最後の詰めが上手くいっていない様子。
そのまま進展はなく、午前中の魔法講義は修了する。
昼食を食べた後、場所を移して午後の講義を始めると、直ぐに来訪者があった。
ヒヅキは水瓶をフォルトゥナに託した後、応接室に移動して来訪者に会う。
やってきたのは、エインとプリス。それに前日の女性。
ソファーに腰掛けたエインとプリスの後ろに女性が立っているので、護衛という事なのだろう。
ヒヅキが侍女の案内で応接室内に入ると、侍女に世話されていたエインとプリスが顔を向けて、それぞれ喜色を浮かべる。
後ろに立っている女性はヒヅキへと軽くお辞儀をして挨拶をした。
「久しぶりだな!!」
「御久し振りで御座います」
立ち上がったエインはヒヅキに笑みを浮かべて言葉を掛ける。その横でプリスがヒヅキへと頭を下げて挨拶をした。
「お久し振りですね。エインさん、プリスさん」
そんな二人へ笑みを浮かべてヒヅキは挨拶を返すと、ヒヅキを案内してきた侍女とエイン達を世話していた侍女がヒヅキの分の飲み物を用意して部屋を出ていくのを横目に、ヒヅキは飲み物が用意されたエイン達の向かいのソファーまで移動する。
ソファーの前に到着すると、ヒヅキは僅かに逡巡してから二人の向かいのソファーに腰掛ける。エイン達もそれに倣って再度ソファーに腰を落ち着けた。
「手紙でも謝罪したと思うが、すまなかったな。何度も訪れてくれたのだろう?」
ソファーに座って直ぐにエインはヒヅキに謝罪する。
「そうですね、幾度か伺いましたが、事前に何の約束もしていませんでしたから」
その謝罪に、名も無き村へ向かう前の手紙以外では事前の約束などする気も無かったヒヅキだが、適当にそう答えておく。
「そうだが、申し訳なくてな。人を置くべきだったのだが、それも遅れてしまった」
エインは顔を曇らせて、本当に申し訳なさそうにする。
そんなエインに、ヒヅキは掛ける言葉を探すのも面倒だと思い、話題を変える事にした。
「そういえば、王位継承権は王に返されたとか?」
ヒヅキの言葉に、エインはまだ優れない顔色ながらも、頷いて答える。
「ああ。君と旅に出る為にな。まぁ、あんなものは元から要らなかったからな、丁度いい機会だったという訳さ」
エインは何処か皮肉げに笑うと、軽く肩を竦めた。
「とはいえ、その後も変わらず仕事を押し付けられていたから、君の来訪に応える事が出来なかった訳だが」
ため息を吐いたエインは、疲労を顔に浮かべる。余程多くの仕事を押し付けられていたのだろう。
「それはお疲れ様です。しかし、そのおかげでガーデンも大分復興してきたと思いますが」
「まぁ、な。だが、代わりに色々な犯罪も増えた。警備する兵士が減ったのもだし、流民の影響もある。他にも貧しさやスキアに対する不安などが相まって、色々とあるようだ。特に薬物に逃げる者が増えた印象だな」
先程とは趣の違う暗い顔をしたエインは、真面目な声音でそう語る。
「薬物ですか」
色々と街中を歩いたヒヅキには心当たりがあったが、やはりそれについてヒヅキはわざわざ口にする気はなかった。




