再会102
部屋に戻った後、ヒヅキは風呂の支度を済ませてから窓を開けると、やや冷えてきた外気を室内に取り込みながら椅子を動かして、窓際のいつもの場所に腰掛ける。
フォルトゥナもそれに倣って椅子を動かすと、隣に腰掛けた。
『明日から頑張ります!』
椅子に腰掛けて息を吐いたところで、フォルトゥナが気合の入った声でヒヅキに話し掛ける。
アイリスへの魔法講義についてだろうが、先ほどヒヅキがアイリスに説明したのを聞いて張り切っているのかもしれない。
そんなフォルトゥナに、ヒヅキは苦笑しつつ返事をする。
『よろしくね。多分数日ぐらいなら向こうも来ないと思うから』
『はい! それまでには魔法を覚えさせます!!』
大きく頷いた後に、握りこぶしを作る。そうしてフォルトゥナが気合いを入れていると、風呂の用意が整う。
二人は侍女の案内で風呂場に移動すると、入浴をしてから部屋に戻る。
部屋に戻った後は少し涼んでから、二人は就寝した。
翌日も早くからヒヅキは目を覚まして、感知魔法の訓練を行う。それも明るくなってきたところでフォルトゥナを起こして朝の支度をしていく。
それを終えると、椅子に腰掛けながらのんびりと過ごす。
侍女が朝食に呼びに来るまでゆったりとした時間を過ごすと、呼びに来た侍女の案内で食堂に移動した。
食堂で先に来ていたシロッカス達と挨拶を交わした後、ヒヅキ達は侍女が引いた椅子に腰掛け朝食にする。
それを終えると、場所を移してアイリスへの魔法講義を行う。
フォルトゥナがアイリスに魔法の講義をする中、ヒヅキは魔力水の準備をしていく。
魔力水の準備を終えると、ヒヅキは少し離れたところから講義の様子を眺める。
現在は魔力水があるので、魔法の行使に加減が無い。アイリスはガンガン魔力を使用して魔法を行使しては、魔力が枯渇したら魔力水を飲む。
アイリスは保有している魔力量が少ない為に、少量の魔力水の回復量で十分回復する。なので、頻繁に飲んでも飲み過ぎというほどではない。
それを眺めながら、ヒヅキは魔力水に中毒は在るのだろうか? という疑問が浮かぶ。
ヒヅキは水瓶を手に入れてから頻繁に飲んではいるも、それでも魔力の回復手段として飲んでいた訳ではないので、そこまでがぶがぶと飲んでいる訳ではない。魔力の枯渇と回復を繰り返している訳でもないので、その辺りはよく分からない。
「………………」
なので、ヒヅキにとっては魔法講義も興味深いものの、現在のアイリスの様子もまた興味深かった。
魔法講義の様子を眺めながら、アイリスに変化がないかも観察していく。
とはいえ、フォルトゥナ曰く、エルフの国やその周辺国では魔力水は一般的ではあったらしいが、それで問題になっていたという話は聞かなかったので、おそらく問題はないのだろう。
それでも人間相手の情報ではないので、これは貴重な資料となるだろう。
そんなことを考えながら、ヒヅキは空になった容器に魔力水を注ぐ。
しかし、ヒヅキは魔力水を常飲しているも、今のところ何も問題はないので、仮にアイリスに何か変化が在ったとしても、それは大事には至らないだろう。
水を注ぎ終えた後に少し離れたところから観察しながら、ヒヅキも手元の容器に注いだ魔力水を飲む。相変わらず味は良く、飲みやすい。
そんな魔力水に目を落としたヒヅキは、それにしてもと、水瓶を入手した時の事を思い出す。
当時はよく分からなかったとはいえ、ウィンディーネは魔力水については何も言及はしなかった。それは今でもだが、これについてはヒヅキが問わないから、という部分が大きい。ウィンディーネの場合、訊かれなければわざと答えないというのが非常に多い。
そんなウィンディーネに、ヒヅキは思わずため息を吐きたくなるも、今はそれは横に措く。
ともかく。おそらく、いや確実に知っていたであろうウィンディーネに、一応魔力水について問うた方がいいなと、今更ながらに考えたヒヅキは、フォルトゥナの魔法講義を眺めながら、何について訊こうかと思案を巡らせていく。




