再会100
通い慣れたというほどではないかもしれないが、それでもすっかり馴染んだ感のある道を進んで、ヒヅキ達はプリスの家に到着する。
扉の前に立ったヒヅキは、やや強めに戸を叩くと、少し待つ。
『………………』
今回はフォルトゥナが何も言わなかったので、家の中に誰かしらが居るのだろう。
しばらく扉の前で待っていると、扉が開かれ、中から女性が姿を現す。
中から出てきた女性は、プリスでもなければエインでもないが、ヒヅキにはその女性に見覚えがあった。
(確かプリスさんの部隊に居た)
かつてヒヅキの情報を流した裏切り者を追ってプリスの家を訪れた際、案内された部屋でその裏切り者と共に居た女性。印象が薄かったのであまりはっきりとは覚えていなかったが、ヒヅキは何とかすぐさまその事を思い出す。
「お久しぶりで御座います。本日はどのような御用件でしょうか?」
相手もヒヅキの事を覚えていたようで、会釈すると簡単な挨拶の後に用件を問う。
「プリスさんはいらっしゃいますか?」
「申し訳ありません。プリスは現在所用で留守にしております」
「そうですか。いつ戻ってくるかわかりますか?」
「おそらく夜だと思いますが、詳しい事はわかりません」
「そうですか。それでしたら、お戻りになられた時にこちらの手紙をお渡し願えませんでしょうか?」
そう言いながらヒヅキは背嚢から手紙を取り出すと、それを女性に差し出す。
女性は丁寧な手つきでそれを受け取ると、しっかりと頷いて見せる。
「確かにお受けいたしました。必ずプリスが戻った際に渡します」
「お願いします」
「はい」
最後にもう一度託すと、ヒヅキとフォルトゥナはプリスの家を後にした。
そのまま区画を出ると、門で顔見知りの男に軽く挨拶をする。ついでに少し話をしたが、いつもより短め。
会話を終えると、シロッカス邸に戻っていく。これでもうここへプリスを訪ねに来る事はないだろう。後は手紙を受け取ったプリス達次第と言ったところ。
『これでこちらは終わり。後はアイリスさんに魔法を教え終わったらガーデンを出るよ』
『はい! 魔力水も在りますので、出来るだけ早くに魔法を習得させてみせます!!』
『よろしくね。でも、別に焦らなくてもいいよ』
帰路の途上で、ヒヅキがフォルトゥナにガーデンを出る目処について告げると、気合の入った答えが返ってきて、ヒヅキはやや苦笑を顔に浮かべる。
『いえ。余計なものが増えても迷惑ですから!!』
『余計なもの、ね』
フォルトゥナの言葉にヒヅキは小さく肩を竦めると、それ以上何も言わずに歩いていく。
ヒヅキにとってエインとプリスは確かに余計なものだが、それを言い出したら、一人旅を望むヒヅキにとってはフォルトゥナも似たようなモノ。ただ、フォルトゥナについては有用でもあるので色々諦めているようだが。
(まぁ、一番余計なものは確実にウィンディーネだが)
実体を持たずに未だに周囲に居る存在について思い出し、ヒヅキは一瞬僅かに不快げに顔を歪める。
とはいえ、どうする事も出来ない相手なので、こればかりはヒヅキでもどうしようもない。実力行使も不可能な時点で、対策の立てようがなく、小細工を弄しても逆に楽しませるだけ。もういっそ開き直ってみれば、好評という悪循環であった。
ヒヅキは小さく顔を振って思考を切り替える。いつまでも無駄な事に囚われていてもしょうがない。
色が変わり始めた世界で、ヒヅキはそっと息を吐いて周囲を見回す。
人々がやや忙しなく動いているが、まだ余裕がある。夜の帳が下りるにはまだ少し時間があるからだろう。
このまま戻れば、今日も日暮れ前にはシロッカス邸に到着出来るだろうが、その後の予定については特に決まっていなかった。




