再会94
感情の窺えない瞳の奥に苛立たしげな怒りの光を一瞬輝かせたヒヅキだが、それも一瞬の出来事。誰に見られる事もなく、その光は消えていった。
「………………」
目線はそのまま月に向けたまま、ヒヅキはその先のモノについて思考を巡らせていく。
ヒヅキが予想している月と太陽を気持ち悪く感じている原因は、神と呼ばれる存在。
どういう原理か、何をしているのかは分からないが、それ以外に元凶となりそうな存在をヒヅキは知らない。それに、おそらくヒヅキは神と遭った事があった。
(あれが神だとは思うが……)
ソヴァルシオンで夢っぽい世界で出遭った奇妙な相手。
ウィンディーネから色々と神の話を聞いた今ではそれが神であると思えるのだが、当時はそんな事は知らなかった。とはいえ、質問を禁じられていたので、知る機会は無かったのだが。
(まぁいい。とにかく、神はどうにかしなければならない。その為にも、その神の天敵とやらを探して心臓の欠片を返さなければな)
改めて決意したヒヅキだが、それと共に残りの心臓の欠片についても思案する。仮に目的の人物を見つけたとしても、心臓が揃っていなければ神には勝てないだろう。
(そもそもの話、心臓の欠片はどれぐらいあるんだ?)
現在手元に在る心臓の欠片を思い出し、それから心臓というからにはそれなりに大きいのだろうと考え、現状で半分もいっていない可能性を考える。
(もしそうだとして、残りの欠片の場所、か。……近い遺跡に欠片を全て封じては、封印を解いて下さいと言っているようなものだし、残りは他国に在るのか? 全てが遺跡に在るとは限らないし、中には誰かが保管している可能性も、紛失している可能性もあるんだよな)
考えていく内に頭が痛くなりそうな事ばかりが頭に浮かび、ヒヅキはため息を吐きそうになる。
(流石に相手が相手なだけに、面倒そうだな。ただ、一応カーディニア王国の遺跡だけでそれなりに集まったから、そこまで散らばってはいないのか?)
神の性格を考えてみれば、その可能性も在った。己を倒せる可能性が在る者が居なければ、遊ぶには少々刺激が足りないのかもしれない。とはいえ、だからといって簡単に復活させる気もないようだが。
「はぁ。そもそも、何でこんな事を考えなければならないのか」
その事を考えたヒヅキは、堪らずため息を零す。
(どう考えても神に挑むのは、世間から英雄とか勇者とか呼ばれている偉人達の仕事だろう。何でよりにもよって単なる村人がしなきゃならないのか)
視線を窓の外から外したヒヅキは、一瞬隣に座るフォルトゥナの方に目を向ける。
あの声の主が言った通りであれば、フォルトゥナは間違いなく英雄だ。しかし、であれば力を与えている神には勝てない可能性が高い。それはヒヅキの中に居るという英雄達が証明しているような気もするが、それとは別に、退屈を嫌う神がそんなつまらないことをするだろうか? という思いもあった。
(……しないな。天敵の心臓をあれ程近い場所に封印するどころか、その天敵自身も同じ場所に封じるような存在が、わざわざ自分に挑みに来た者から力を奪ってしまうなんてつまらない事はしない。むしろ更に力を与えかねない気がするな)
ただし、それはウィンディーネ達が語る神の性格が事実であった場合に限るのだが。
(おそらく本当だろう。だが、確証は無い。困ったものだな、情報すらろくに集まらない相手を敵にするというのは)
神について知っていそうな者達があまり多くは語らないのだからしょうがない。調べてみてもウィンディーネ達の話す神についての情報は出てこないのだから。
ヒヅキは軽く首を振ると、立ち上がり窓を閉める。真夜中のガーデンは、それでも微かに騒々しい。
気温がすっかり下がって過ごしやすくなったからだろうかと思いつつ、窓を閉めたヒヅキは、そのままベッドへと移動する。
それに合わせて慌ててフォルトゥナも立ち上がり続くと、後を追ってからヒヅキに容器の返却をする。その後、二人はベッドで横になって眠りについた。




