再会93
(何度考えても難しいな)
幾度も探す方法を考えてみるも、何度考えても手詰まり状態でしかない。
何かしらの手掛かりが遺跡に残っている事を願う以外には手がないので、探索は難航しそうだ。
(何かしらの魔法でもあればいいのだが)
それこそあの声の主が言っていた新しい魔法とやらに期待するしかないかもしれないと、半ば本気で考え始めるぐらいに。
ヒヅキがどうするべきかと思考していると、侍女がやってきて風呂の用意が整った事が告げられる。
窓を閉めて着替えを持つと、二人は呼びに来た侍女の案内に従って風呂に入り、風呂上がりは部屋で窓を開けて涼む。
夜も更けてきたので、外から入ってくる風は涼しくなってきている。少なくとも、湯上りには気持ちがいい温度だった。
フォルトゥナと並んで腰掛けたヒヅキは、月明かりの中、もし明日プリス達が不在だった場合に残す予定の手紙を書いていく。次が最後の訪問とはいえ、直ぐにガーデンを発つ訳ではないので、その旨も認めておいた。
「………………」
一瞬その事を本当に書いていいものかと悩んだが、一応書いておく事にする。後で何を言われるものでもないだろうが、約束は約束なのだ、そこだけは誠実であろうという想いからの行動であった。
頼りなげな青白い月明かりの下で手紙を認めていくも、やはり文字を書くには些か暗いので、光球を現出させる。
淡い白光が手元を照らす。おかげでしっかりと手元が確認出来るようになり、質の悪い紙にでもしっかりと文字を書くことが出来た。
認めた手紙へフォルトゥナに保護魔法を掛けてもらってから背嚢に仕舞うと、出していた道具を片付け、部屋に戻って直ぐに用意していた容器に水瓶から水を注ぐ。
「ふぅ」
『お疲れ様です』
ヒヅキが水を1口飲むと、フォルトゥナが労いの言葉を掛ける。
『手紙を1通書いただけだけどね』
冗談めかして肩を竦めると、ヒヅキはフォルトゥナが両手で包み込むようにして持っていた容器が空になっている事に気がつく。
『水のおかわりはいる?』
水瓶を軽く持ち上げて訊くと、フォルトゥナは容器を見つめて一瞬迷った後に、両手で持ったまま容器をヒヅキに差し出した。
『頂きます!』
妙に気合の入った声音にヒヅキは小さく苦笑しながら、フォルトゥナが差し出した容器に水を注いでいく。
『ありがとうございます!』
ただそれだけで感激したような声音で礼を告げたフォルトゥナは、有難そうに容器を少し掲げてから口を付けた。
そのいちいち大仰な動作に困ったような表情を浮かべながら、ヒヅキは視線を窓の外に移す。
窓の外はすっかり暗くなっているが、街道の明かりが一部の闇を払っている。流石に豪勢な住宅が建ち並ぶ区画なだけに、通りには一定の感覚で街灯が設置されていた。
ヒヅキに割り当てられた部屋の正面には街灯は無いが、それでも明かりが確認出来る。
その街灯から放たれている明かりを眺めながら、ヒヅキは無粋なものだと少々思う。
明かりの意味は分かる。ヒヅキとて遺跡内で光球を現出させて探索していたのだから。それでも闇には闇の素晴らしさが在るだけに、街灯の明かりというものをヒヅキはあまり好きではなかった。
しかし、それ以上に嫌いな月明かりが地上に降り注いでいるので、街灯は少々無粋だなと思う程度で、それ以上は気にならない。
(月、か)
太陽と月に気持ち悪さを感じているヒヅキはその原因について思考するが、可能性というか、ほぼ確実に原因だと思われる存在について心当たりがある為に、その思考は原因の追究から原因を取り除く方向に流れていく。
「………………」
ヒヅキは感情の窺えない瞳を月に向ける。
そこに浮かぶ欠けた月は、いつものように夜空でその存在を主張している。しかしヒヅキには、それがヒヅキを見て笑っているようにしか思えなかった。




