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再会91

 未だに生暖かい風が頬を撫でるなかガーデンの街中を進み、シロッカス邸に到着したのは日暮れ少し前。

 部屋に案内されたヒヅキ達は、荷物を降ろして椅子に腰掛ける。

「ふぅ」

 椅子に座って一息ついたヒヅキは、空間収納から水瓶と2つの容器を取り出し、それぞれの容器に水を注いでから片方に口を付けると、もう片方の水を注いだ容器をフォルトゥナに差し出す。

『飲む?』

『ありがとうございます!』

 フォルトゥナはヒヅキが差し出した容器を捧げるように受け取ると、ヒヅキが水を飲んでいるの姿を眺めながら、そっと唇を容器の縁に当てて、大事そうにゆっくりと容器を傾けていく。

 その様子を一瞥した後、ヒヅキは窓の外に目を向ける。

 陽が落ちて間もない為に薄闇が辺りを覆っているが、まだ辛うじて視界は取れる。それも直に真っ暗になるだろうから、まだ帰宅していない者は家路を急いでいる事だろう。

 それでも、ガーデンの街中は中心地は街灯が多いので、割と明るい。その為、酒場を中心に既に開いている店も多いので、それなりに賑やかだ。

 酒場が多いという事は、それだけ酔っ払いも増えるという事で、昼間に比べて治安はやや悪化する。

 大人の時間と言えば魅惑的に聞こえるものの、実際は荒くれ者の時間でしかない。良い子はお家に帰ろうというやつである。

 まぁ治安が悪化するので、その分見回りの兵士達の数も増しているのだが、それでも全てを補える訳はなく、必ずどこかに漏れが出てくるものだ。

(あれもまぁ、そういうやつのひとつだろう)

 ヒヅキ達は名も無き村から戻ってきた際、夜陰に紛れてガーデンへと密入国したのだが、その後に落ち着ける場所を求めて夜の街を彷徨った。

 その時にガーデンの闇の中で行われていたモノを幾つも目にする。例えば違法な麻薬の売買。スキアの襲撃後は、その動きが活発化しているらしい。やはり襲われ奪われる恐怖はそうそう消え去りはしないのだろう。

 他にも窃盗や殺人なんかもあったが、その被害の大半が路地裏の住人だったので、大して問題になっていない。表に出てこない者達は居ないものとして半ば黙認されている感があった。シラユリの様に彼らをよく思わない者達は相当数居るのだろう。まぁ自業自得とも言えるが。

 犯され奪われ殺される。そういった現実から逃れる為に薬を服用していく。そんな循環もきっとあるのだろう。

(まぁその辺りはどうでもいいが)

 ガーデンの事はガーデンの者が考えればいい。余所者であるヒヅキには、それらは心底どうでもいい事であった。現状でも、暗くなったら家から出なければ問題ないのだから。

 夕食の準備が整うまでの時間、ヒヅキは夜の街を眺めながらそんな事をぼんやりと考える。

 色々なモノを抱え込んだ街だが、それでも正常に機能している。こういうのを壊すのが神は好きなのだろうかと、街を眺めながらふと思い浮かぶ。

「…………ふむ」

 窓の方に手を伸ばしたヒヅキは、指を曲げて視界に映る街を掴むようにしてみる。そして、そのまま一気に握りしめてみた。

「これの何が面白いのか」

 出来た物を破壊する事に一種の快楽を抱く精神については理解出来るヒヅキではあるが、それを暇だからと無意味に行う神の精神までは理解出来なかった。

「創造に破壊はつきものよ」

 そんなヒヅキの独白に、何処か呆れたような声が返ってくる。それと共に目の前に美しい女性が姿を現す。

「はぁ。久しぶりですね、ウィンディーネ。しかし創造ですか……街を造り上げたのはそこに住まう者達だと思いますが?」

 その美しい女性、ウィンディーネへと、ヒヅキは冷めた声で言葉を返した。

「ホント、久しぶりに顕現したわね! まぁそれはそれとして、その街を造った者達を創ったのが神なのだから、街を造ったのも神という事にならないかしら?」

「ならないかと。それより、そろそろ誰か来ると思いますが?」

「少しぐらいいいじゃない。意外と窮屈なのよ、姿を消しているというのも」

「そうですか。しかし、そんな事は知りませんよ」

「ふふ。ヒヅキは相変わらずね。ああそれと、神の理論はどれも理不尽なものよ」

 楽しそうに笑ったウィンディーネは、僅かに憐れむような声音でヒヅキにそう告げた。

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