再会90
ガーデンの街中は相変わらず騒々しい。人目を避けて移動してもそうなのだから、大通りはどうなっているのか。
「………………」
ヒヅキは周囲に目を向けた後、その嫌な想像にそっと息を吐いて空に目を向ける。
空は清々しいまでに青色をしていて、そこに真っ白で柔らかそうな雲がゆっくりと流れている。太陽は地上を焼き焦がそうとしているかのように輝き、地上の温度を上げていた。
現在の季節は冬。といっても、まだ本格的なモノではないので、秋の色が濃い。それどころか、今年は夏の気配が未だに漂っているようで、日中は日陰で何もしていなくとも額に汗が浮かぶほどだ。
そんな中、ヒヅキは太陽の下でガーデンの街中を歩いているというのに、その顔にはほとんど汗が浮かんでいない。だからといって熱くない訳ではないのだが、ヒヅキは平然とした顔だ。
実際のところ、ヒヅキは見える場所に汗をあまり掻かない代わりに、外から見えない服の中でびっしょりと汗を掻いていたりするのだが、まぁそれはどうでもいい話だ。
そんなヒヅキの半歩後ろをフードを目深に被ってついてくるフォルトゥナは、フードだけではなく全身を色の濃い背嚢で覆っているので、見た目には更に熱そうだが、フォルトゥナも平然としたものだ。ただフォルトゥナの場合は、氷の魔法を用いて背嚢内の熱を和らげているのだが。
そんな両者は、かなりの速度で街中を進む。一般人からすれば走っているような速度でも、二人にすれば並足よりは速いだろう程度でしかない。
太陽が中天から傾いていくなかを足早に街中を進んでいくと、昼間には目的の区画に到着する。
その区画は、王城に勤める臣下の為の区画。人の視線を遮る高さの石壁で区画は囲われていて、出入り口には門が置かれていた。
門が設置されているのは2ヵ所のみ。1つは王城側。もう1つは通り側。大通りからは少し離れているが、そこから王城に並行するように延びている通りに門は面している。
ヒヅキ達が入るのは、後者の通りに面している門。王城側は臣下や区画の警備をしている兵士のみが通れる。例外は王やその一族。それと王が許可した人物のみだ。
そんな区画だが、通りから入る分には何の制限もない。門の傍には門番が立ってはいるが、明らかな不審者でもない限りは見咎められる事はないだろう。
ヒヅキ達は数回訪れているので、慣れた様子で門を通る。ヒヅキに至っては、もう10回以上は訪れているだろう。
門を通る際、門番が顔見知りだったので軽く手を上げて挨拶を交わした。
区画内は整然と整備されていて、道は直線ばかり。左右に建ち並ぶ家々はどこも似たような石壁で造られていて、家の造りも似ている。
そんな似たような風景が続く迷路のような街並みを、ヒヅキは慣れた足取りで進んでいき、一軒の家の前で足を止めた。
「さて、今日は在宅かな?」
家の扉を叩いて様子を見る。普通であればこのまま待つのだが。
『今回も不在のようですね』
すぐさま後ろから答えが返ってくる。
『そっか。忙しいようだな』
常に広範囲の様子を探っているフォルトゥナにとって、家の中に人が居るかどうか感知するのは容易い事。それでもヒヅキが扉を叩くまで答えないのは、ヒヅキの意思を尊重してなのかもしれない。
『………………』
何か言いたげなフォルトゥナだが、ヒヅキは気づかない振りをして区画の出口に向かって歩いていく。
その後ろをフォルトゥナが黙ってついて行く。そのまま来た道を戻って行き、区画の出入り口に到着した。
帰りに門番と軽く言葉を交わして、ヒヅキ達が来た痕跡を残す。
その門番は30も後半の高齢の男性だが、健康的な肉体をした元気な男性であった。病気や大怪我でもしない限りは、まだ倍は生きるのではないかと感じさせるほど。
男性はとても親しげなうえに話好きなようで、ヒヅキが話しかけると嬉しそうに色々と私事を話してくれる。
しばらくそうして門番と会話をした後、ヒヅキ達は区画を離れてシロッカス邸に戻っていく。その頃には日が大分傾き、周囲が赤く染まり始めていた。




