再会85
義手から目線を上げたヒヅキは、隣に腰掛けているフォルトゥナの方に顔を向ける。
ヒヅキが顔を向けた先には、悲しげとも苛立たしげとも取れる複雑な表情をしたフォルトゥナの姿があった。
『フォルトゥナ?』
そんなフォルトゥナへとヒヅキが怪訝な表情で声を掛けると、フォルトゥナはハッとして表情をいつもの幸せそうな微笑みに戻す。しかし、そこには少々気まずげな色と恥ずかしげな色が混在して浮かんでいる。
『どうかした?』
ヒヅキが問い掛けるも、フォルトゥナは首を横に振って何でもないといった事を告げる。
『……そう』
そんなフォルトゥナに頷くと、ヒヅキは視線を窓の外に移す。そこには薄曇りの空が広がっていた。
ヒヅキがしばらくそうして外の風景を眺めていると、扉を叩く音と侍女の声が室内に響く。
朝食の準備が整った事を告げに来た侍女に返事をして、ヒヅキは窓を閉めて応対する。
そのまま侍女に先導されて食堂に移動すると、先に来ていたシロッカスとアイリスに挨拶をした。
挨拶をしてから侍女が引いた椅子に腰掛け、目の前に食事が並べられるのを待つ。
食事が並べられると、食前の祈りを捧げて四人は食事を開始した。
いつも通りに歓談しながら食事を進める。
今日の朝食は、柔らかな白いパンに腸詰の肉。酢漬けの野菜に果物だった。全体的にやや量が多い。
ヒヅキが白パンを掴むと、そこに切れ込みが入っている事に気がつく。どうやらこの切れ込みに腸詰の肉と酢漬けの野菜を挟むようだと直ぐに理解したヒヅキは、念のためにシロッカスとアイリスの食事風景をちらりと確認する。
そうすると、ヒヅキの予想通りに白パンの切れ込みに酢漬けの野菜を敷き、その上に腸詰の肉を乗せて食す二人の姿があった。
シロッカスは豪商ではあるが貴族ではない。それに、今は私的な場所故に礼儀など関係ないのだろう。
そんな行儀など関係ない庶民的な食べ方をする食事を、ヒヅキも二人を真似て、まずは酢漬けの野菜を白パンの切れ込みに詰めてから腸詰の肉をその上に乗せる。それが済むと、端から豪快にかぶりついた。
白パンの柔らかさと腸詰の肉の独特の食感。最後に酢漬けの野菜の確かな歯ごたえを感じながら、噛み切ったパンと肉と野菜を咀嚼していく。
パンの仄かな甘さを先に感じた後、直ぐに肉の濃厚な旨みと香辛料の独特の苦みが調和した満足感の在る味が舌を襲う。
やや遅れて、僅かにピリッとした香辛料の辛さと酢漬けの野菜の爽やかな酸っぱさが舌を通り過ぎた。
そんな様々な味を食感と共に楽しみながら飲み下すと、後にはやや酸っぱさの混ざった何とも言えない爽やかな旨みが残った。
そのまま2口3口と食べ進めていくと、直ぐに食べ終わってしまう。途中途中に会話を挿みながらも、その次のパンも直ぐに食べ終わり、ヒヅキは果物に手を伸ばす。
果物は食べやすいように事前に切り分けられており、それを掴んで口に放る。
シャリシャリとした食感と共に甘い果汁が染み出てきて、口腔内に浸透していく。
普段甘味というのはそんなに口にするものではない。精々が森の中で果物を採った時ぐらいだ。
ヒヅキも街中で甘味を買う事が以前はあったものの、最近は甘味を出している店をほとんど見掛けなくなった。もっとも、ヒヅキは別に甘味が好きという訳ではないので、積極的に買う事は無かったが。
ともかく、貴重な甘味だ。ヒヅキは豪勢な食事と一緒に、それらをしっかりと噛んで味わった。
そうして朝食を終えると、アイリスに魔法を教える為に部屋を移す。
今日は1日魔法を教える予定であるので、まずはそれについてフォルトゥナはアイリスに説明を行う。
「まぁ! 本当ですか!!」
その説明を受けたアイリスは、目をキラキラと輝かせて感激したような声を上げる。よほど魔法の授業が好きなようだ。
アイリスの言葉にフォルトゥナは首肯すると、早速とばかりに講義を始めた。




