再会82
ヒヅキがフォルトゥナにアイリスへの魔法講義を任せたところで、扉が叩かれる。
それにヒヅキが応対すると、夕食が出来た事が告げられた。
窓を閉めると、呼びに来た侍女と共に二人は食堂に移動する。
食堂では、戻って来ていたシロッカスとアイリスが歓談しながら待っていた。
ヒヅキは二人に挨拶をすると、案内されてフォルトゥナと隣り合って腰掛ける。隣と言っても机が大きいので、間は結構離れているが。
四人が揃ったところで料理が並ぶ。
食前の祈りを捧げたところで、四人は食事を始める。
会話をしながら食事を進め、ヒヅキはゆっくりと食事を楽しんだ。夕食もとても満足できる出来であった。
部屋に戻ったヒヅキとフォルトゥナは、先に着替えの用意を済ませて、風呂の用意が出来るまで窓際の椅子に腰掛ける。
『そういえば、フォルトゥナは人探しに役立ちそうな魔法は知らないの?』
水の入った容器を片手に、ヒヅキは思いついた事を問い掛けた。
『あるにはあります。ですが、ある程度は相手の情報が必要になるモノばかりでして……』
申し訳なさそうなフォルトゥナに、ヒヅキは気にしてない旨を告げる。
『単なる思い付きだから気にしないで。あればいいなぁと思っただけだから』
元々手掛かりがほとんど無い状態で探す予定だっただけに、それが変わらないというだけで責める理由もない。
しかし、たとえそうだとしても、フォルトゥナとしてはヒヅキの要望に沿えないというだけで痛恨の極みであった。
『……しかし、それでも情報があればどうにかなるのか。そうだとしたら、まだ光明が在るかもしれないな』
ヒヅキはフォルトゥナに気にしていない旨を告げながら考えてみると、それでも好転している事に気がつき、そう零す。
『私はヒヅキ様のお役に立てそう、ですか?』
『ん? うん。情報が集まった時は頼むよ』
『はい! お任せください!!』
恐る恐るといった感じで問い掛けたフォルトゥナに、ヒヅキは僅かに怪訝な表情をしてから頷く。
ヒヅキが頷いたのを確認したフォルトゥナは、気合いを入れて返事をする。
そんなフォルトゥナを一瞬不思議そうに眺めたヒヅキだが、直ぐに視線を窓の外に向けた。
視線を向けた先でちょうど月の姿を視界に収め、ヒヅキは不機嫌そうに顔を歪める。
そこで風呂の用意が出来た事を告げに侍女が扉を叩く。
ヒヅキは月の光から逃れるように席を立つと、扉を開けて侍女に応対した。
その後に着替えを手に風呂場に移動すると、ヒヅキ達は入浴を楽しんだ。
入浴後、部屋に戻ったヒヅキ達は少しのんびりした後に眠りにつく。
◆
『………………』
(……今度は何用で?)
『まぁ、そう不機嫌にならなくても』
自分の姿だけがはっきりと見える暗闇の中、ヒヅキは慣れた様子で闇に語り掛ける。そうすると、闇の中から苦笑するような口調で声が返ってきた。
(別に、不機嫌という訳ではありません。これが普通です)
『それは悪かった』
(それで? まだ新しい魔法とやらも頂いていませんが?)
『ああ、そちらはちょっと手間取っていてね。それについては申し訳ないが、もう少し待ってくれ』
(はぁ)
ため息でもつきそうな声の主の声音に、ヒヅキは気の無い声をを返す。
『まぁそれはそれとして、今回呼んだのは気になった事があったからだよ』
(気になった事?)
『ああ。君は最近エルフの娘を引き連れているだろう?』
(勝手についてきているだけです)
『ま、そこは正直どうでもいいさ』
(それで? それがどうかしましたか?)
『うん。君は彼女に対して何か思うところが在るのではないかなぁと思ってね』
(…………どういう意味でしょうか?)
声の主の言葉に、ヒヅキは一瞬考えた後、若干声の高さを落として問い掛けた。




