再会81
それから時折軽く言葉を交わしながら、ヒヅキ達はプリスの家が建つ区画に到着する。
区画の入り口は、前回同様に素通りできた。
迷うことなくプリスの家を訪ねると、ヒヅキは扉を叩く。
「………………」
そうして少し待とうとしたところで。
『ヒヅキ様。家の中は誰も居ないようです』
後ろに立つフォルトゥナが教えてくれる。
『……そう』
基本的に人の家の中までは探らないようにしているヒヅキだが、それはあくまでもヒヅキの中での決まり。フォルトゥナには関係のない話なので、家の中の様子を探ってヒヅキに伝えたようだ。ただ、フォルトゥナであればシロッカス邸からでもその事は察知していたであろうから、この場合、ヒヅキがプリスの家まで移動して扉を叩くまで待ってくれていたと捉えるべきであろう。
ヒヅキは少し考え、踵を返す。
今回は手紙は用意していなかったので残すものは無いので、区画出入り口まで移動すると、門番に挨拶や少し世間話をして多少でも印象に残るようにした。
フォルトゥナが素顔を晒せば一発で記憶に残るかもしれないが、今回はヒヅキの顔を覚えてもらうのが目的なのでやめておいた。騒ぎになったら面倒というのも理由だが。
もしも家臣たちが住まう区画の入り口で騒ぎを起こせば確実にエイン達に伝わるが、同時に合流も許してしまう。出来れば合流したくないヒヅキにとっては、それでは都合が悪かった。
(まぁもっとも、気配を探ってしっかり避ければ何とかなるんだが)
ヒヅキはそう思うも、そこまではしない。約束をした以上、そこは運試しのような感覚なのだろう、
そうして一応証拠を残したところで、ヒヅキはシロッカス邸に戻る為にその場を離れる。
天上は曇り空ながらも、やや光量が落ちてきたので、もうすぐ夕方になるのだろう。
ヒヅキ達は足早で進みつつも、慌てずにガーデンの街中を移動していく。
道は覚えているうえに暴漢程度は脅威にもならないので、移動速度は速くとも、二人の空気はのんびりしたものだ。必要な物は空間に収納しているというのも関係しているのだろうが、そもそもヒヅキとフォルトゥナから物を盗むなど普通の人間には不可能な芸当か。
人を避けつつ道を進み、二人は日暮れ頃にシロッカス邸に到着する。
侍女の案内で部屋に戻ると、二人は背嚢を下ろして、窓際に置いたままであった椅子に腰掛けた。
『明日はどうされるのですか?』
『今日と一緒かな。もう何回か訪ねて、ガーデンを出る。それまでにアイリスさんが魔法を修得してくれればいいが』
『そうですね……教える予定であった3つの内の1つだけでいいのであれば、数日もあれば可能かと』
『そっか。3つ全てだと?』
『3つ全てを修得するとなると………………少なく見積もって20日でしょうか』
『それで修得出来れば十分だが、その倍は必要じゃない?』
『……確実性を考えるのでしたらそうですね。今やっている水の塊を創るのと治癒であれば問題ないでしょうが、解毒はその2つより難度が1つ上でしょうから、前2つである程度慣らしたとしても、3つ修得するにはやはり少なくとも20日は欲しいところですね』
『うん。急がなくてもいいよ。安全に修得してもらう方が先決だからね』
『畏まりました』
『そうなると、もう少し日程を緩く取った方がいいのかもな』
ヒヅキは今後の予定を頭の中で組み直す。
元々アイリスに魔法を修得させる予定であった為にゆとりを持って組んでいたが、それにもう少し余裕を追加していく。
『そうなると、明日の予定も変更しようかな』
『如何なさるのですか?』
『そうだね………………アイリスさんへの魔法講義を1日行うというのは可能?』
『休憩を増やせば可能かと。ついでに一度で使用する魔力量をかなり減らせば1日はなんとか耐えられるでしょう』
『ふむ。それなら明日は、アイリスさんに予定がなければ1日魔法講義に当てようか。何か予定があれば今日と同じに戻せばいいし』
『畏まりました。ご期待に応えられますように精進いたします!』
『う、うん。よろしく』
急にやる気を出したフォルトゥナに、ヒヅキは少し驚きつつ魔法講義の件を託した。




