再会80
シロッカス達との朝食を終えると、場所を移してフォルトゥナがアイリスへと魔法講義を行う。
ヒヅキ達から見ればまだ拙いながらも、魔法操作を覚えたアイリスへの次の講義は、遂に魔法の修得。
「まず覚えるのは水を生み出す魔法」
「はい! 宜しくお願い致します!」
フォルトゥナの言葉に、アイリスは気合たっぷりに頭を下げる。
「まずは手本を見せる」
そう言うと、フォルトゥナは魔力放出して、かなり丁寧に時間を掛けて魔法を行使していく。
そして、程なくしてフォルトゥナの手元にこぶし大の水の塊が現出する。それはフォルトゥナにしてはやけに小さな水の塊であった。
「今やったように、魔力を核に周囲の水気を集めて水の塊にする。この時注意しなければならないのは、しっかりと魔力もしくは魔法で水を綺麗にしなければ、飲み水には適さないという事。しかし、摂取しないのであればその必要はない。後は魔力で集められる水の量は、核にした魔力量に比例するから、最大限に魔力の性能を発揮できるようにすること」
「分かりました!」
「そう。貴方はそこまで魔力量が無いから、無理しないようにやってみて。自分の事を知るのも上達には必要」
抑揚の乏しい冷たい響きの声ながらも、その言動にはしっかりと配慮がなされている。
その多少は他者を労われるようになったフォルトゥナの姿を、ヒヅキは少し優しい気持ちで見守っていく。
フォルトゥナの言葉を真剣に聞いた後、アイリスは見様見真似で魔力を放出していくが、いくら手本付きで丁寧に教えられたとしても、そう簡単に魔法は習得出来るものでもない為に、結果はただ魔力を大目に放出してしまっただけになってしまう。
「……まずは魔力を外で留める事から始めた方がいい」
「魔力を外で留める。分かりました!」
フォルトゥナに指導されながら、アイリスは魔法の練習を行っていく。少しずつ少しずつ完成に近づいていくも、昼になり講義が終わる。
ずっと魔力を放出していたアイリスは、疲れた顔をしていたが、その瞳は活気に満ちていた。
「今日はもう休むように。やりすぎても意味は無い。言いつけを守らないのであれば、次は無い」
だからだろう。フォルトゥナは講義の終わりに、そうアイリスに釘を刺した。
「は、はい!」
それに慌てて返事をするアイリス。
フォルトゥナはそんなアイリスを一瞥だけして、既に廊下に出ていたヒヅキの横に並ぶと、無言で侍女を見詰めて案内を促す。フォルトゥナも人の家で勝手に動かないぐらいの礼節は一応持っている。とはいえ、それもヒヅキの目があるからだが。
侍女は困ったようにアイリスに目を向けると、アイリスも直ぐに廊下に出て、一緒に食堂へ移動していく。
食堂にはシロッカスの姿は無かった。また仕事で家を空けているのだろう。
程なくして昼食が用意され、アイリスとヒヅキとフォルトゥナの三人で昼食を摂った。
その後、ヒヅキとフォルトゥナはシロッカス邸を出てガーデンの街を移動していく。
『本日はどちらへ赴かれるのですか?』
『前に手紙を置いていった家だよ。在宅かどうかは不明だけれど、まぁそこまで急ぎではないからいいのだけれど』
ヒヅキの本音では留守の方が都合がいいのだが、それは黙っておく。数度訪ねたという実績さえ残せればそれでいいのだ。そうすれば、たとえ置いていったとしても文句は言われないだろうから。
しかし同時に、そう上手くはいかないだろうとも思っていた。そんなに上手く事が運ぶのであれば、誰も苦労はしないのだから。
内心で溜息を吐きつつ、ヒヅキは気持ちを切り替える為にフォルトゥナに先程のアイリスへの指導について話を振る。
『まぁそれはいいとして、フォルトゥナはアイリスさんへの指導が様になってきたね』
『そうでしょうか?』
『うん。相手に合わせた適切な指導だったよ』
フードで顔を隠しながら少し後ろを歩くフォルトゥナへと顔を向けて、ヒヅキは小さく笑みを浮かべた。
『ヒヅキ様がお気に召したのであれば、幸いです』
そんなヒヅキの変化に気づいたフォルトゥナは、フードの下で幸せそうに微笑んだ。




