再会79
『お手数をおかけしてしまい、申し訳ありません』
窓を閉めたヒヅキが席に戻ると、隣の椅子に腰掛けていたフォルトゥナは立ち上がり、ヒヅキの前に跪いて深々と頭を下げる。
『別に気にする必要はないよ。そろそろ寝ようかと思っただけだから』
ヒヅキはそんなフォルトゥナへそう言葉を掛けると、手にしていた容器に入っていた水を一気に飲み干して、空間収納に仕舞う。
そのまま立ち上がりベッドに移動すると、フォルトゥナも後に続く。
ベッドに腰掛けたヒヅキはフォルトゥナから容器を回収して、それも収納する。
その後は二人共ベッドに上がり、少し早めに就寝した。
早く寝たからか、ヒヅキは夜中に目を覚ます。
「………………」
周囲を確認したヒヅキは、視線を下げて胸元に耳を当てるようにして眠っているフォルトゥナの方へと視線を向ける。
幸せそうな顔でぐっすりと眠ているフォルトゥナを見た後に、視線を天井に戻す。
そのまま天井に視線を向けながら、周囲を探っていく。
(少しは周囲が判るようになってきたのだがな)
まだ周囲数メートルほどではあるが、生きていなくとも何が在るのか詳細に判るようになってきていた。ただし、それを拡げていくのに苦戦しているのだが。
時間がある時には積極的にその方法で周囲を探っているヒヅキだが、やはり合っていないのか中々進展は見られない。
それ故に他の方法も模索してはいるも、そちらもまだ上手くいってはいない。
(そういえば、あの声が言っていた新しい魔法とやらはいつになるのやら)
ふとそんな事を思いはしたが、声の主は気づくかどうかはヒヅキ次第とも言っていたので、単にヒヅキが気づいていない可能性もある。勿論まだ修得していない可能性もあるのだが。
(何にせよ、使える魔法であればいいが)
そう考えつつも、あまり期待しないようにする。それよりも今ある手札を育てるか、新たに修得を目指した方がいいだろう。
ヒヅキが天井を眺めながらそんな事を考えている内に、時間が過ぎて朝になる。
その割には部屋に入ってくる光量は少ないが、雨音はしないので外は曇っているのだろう。
朝食の時間まではまだあるが、そろそろ起きる時間だろうと判断したヒヅキは、胸元に耳を当てるような恰好で眠っているフォルトゥナに呼びかけながら揺すって起こす。
数回の呼びかけで目を覚ましたフォルトゥナと朝の挨拶をすると、ベッドから降りて朝の支度を済ませる。
その後は窓を開けて外の様子を確かめると、思った通りに空は雲に覆われていた。どんよりというほどではないが、薄く広く拡がっているようで、太陽光がかなり抑えられていて過ごしやすい。
窓際に置いた椅子に腰掛けて、外を眺めながらヒヅキは今日の予定を頭に思い浮かべる。
今日は、午前中はフォルトゥナによるアイリスへの魔法講座だが、その後はプリス邸に赴き、エインとプリスの現状について確認する。事前に手紙で知らせていたので、準備は出来ているか進んでいるだろう。
もしも既に準備が整っている場合は、明日にでもガーデンを出てもいいが、その前にせめてアイリスに魔法の1つでも修得させた方がいいかと考え、ガーデンを出るのはその後に決める。とはいえ、あの様子ではアイリスは直ぐにでも魔法を修得してしまいそうではあるが。
遅くとも10日は掛からないだろうと予測すると、その先の遺跡探索についても思案する。
対象を見つけるのは非常に困難である事が容易に予測できるので、準備はしっかりと行わなければならないだろう。
(その途中で補給の為にここに戻って、エインさんとプリスさんを置いていきたいものだ)
探索について思案しながら、頭の片隅でそんな無意味な事を考えていると、扉が叩かれ朝食の準備が整ったことが告げられた。




