再会78
入浴を終えたヒヅキ達は、洗濯物を侍女に託して部屋に戻った。
部屋では窓を開けて外気を取り入れる。まだ夕方なので外気はほとんど冷えていないが、それでも風呂上がりの火照った肌には少し涼しく感じる。
二人は窓際で水を飲みながら、のんびり時間を過ごす。
風呂場から部屋まで案内した侍女が夕食を用意している事を二人に伝えていたので、夕食になるまでの間、特に話すでもなくゆっくりとした時を過ごしていた。
そして夕食の準備が整うと、侍女が部屋まで伝えに来てくれたので、窓を閉めて侍女に食堂まで案内される。
食堂には帰ってきていたシロッカスが待っていた。それとアイリスも。
ヒヅキはシロッカスと挨拶を交わすと、軽く話をしながら、侍女が引いた椅子に腰掛けた。それに続いてフォルトゥナも椅子に座る。
ヒヅキ達が腰を落ち着けたところで、夕食が並べられていく。
料理が四人の前に並べられると、四人は食前の祈りを捧げる。
食前の祈りが終わったところで食事を開始する。久しぶりの温かい料理を堪能しながら、ヒヅキはシロッカス達と話をしていく。
ヒヅキ達がガーデンを離れている間の話を互いにする。ヒヅキにとって得る話もあったが、ガーデンは特に変化は無いようであった。
かといって、ヒヅキもそこまで話すような出来事もなかったので、夕食を食べ終えるまでに話を終える。
そもそも名も無き村については語る事は出来ない。別に口止めされている訳ではないが、一般的には知られていない村なのだから、わざわざ話す必要もない。あの村の性質上、その方が都合がいいだろう。
話を終えて夕食を食べ終えると、食後にアイリスがフォルトゥナから貰った魔法道具を自慢げにシロッカスに見せながら、説明を始める。
その説明を聞いたシロッカスは、驚きながらフォルトゥナの方に顔を向けた。
「魔法道具なんて高価な物を頂いてもよかったので?」
エルフの国以外では魔法道具はかなり高価な代物なのでシロッカスの反応は正しいのだが、アイリスに渡した魔法道具自体は大した物ではないので、フォルトゥナは一瞬困惑したような間を空けて「問題ない」 とだけ返す。
「そうか。アルコさんには私からも感謝を」
そう言うと、シロッカスはフォルトゥナに向けて軽く頭を下げた。
頭を上げたシロッカスにアイリスが語り掛ける。そんな二人にヒヅキは断りを入れると、フォルトゥナと共に食堂を辞す。
侍女に連れられ部屋に移動すると、ヒヅキ達は部屋の中に入り、侍女は去っていった。
部屋に入ったヒヅキ達は、部屋を出る前同様に窓を開けて窓際に置いた椅子に腰掛ける。
日が暮れたが、それでもガーデンはまだ賑やかだ。といっても中央付近に限った話で、外側に移動すれば、その分静かになっていく。
同時に街灯の数も減っていくので、夜の闇は濃くなっていくものの、防壁付近だけは比較的明るい。
夜になるとほとんどの商店は店仕舞いをしているが、街灯の多いガーデン中央付近では、代わりに酒場が火を灯す。
そして、中央から少し外れた場所には娼館が開くも、そこは私娼が多いとか。青楼は中央の一角に在り、そこでは昼夜問わずにどこかしらが開いている。
私娼に関しては取り締まっているらしいが、稼ぎに比べてそこまで重い罪にはならないからか、次から次へと現れるので、追い付いていないのが現状だとか。
まぁとにかく、ガーデンの街は夜でも騒がしいのだ。
そんな喧騒が開けた窓から室内に風と共に入ってくると、ヒヅキ達の優れた耳が僅かに捉える。しかしヒヅキにとっては、それでも以前よりは静かなもの。
「………………」
しかし、ヒヅキよりも聴力の優れているフォルトゥナは、不快そうに柳眉を動かす。
横目でその様子を捉えたヒヅキは、そっと立ち上げって窓を閉める。
それで風は入ってこなくなったが、同時に僅かに届いていた音も止んだのだった。




