再会74
そんな風に探知魔法の修練をしながらショッリの森を何日も掛けて進むと、ヒヅキ達は森の外に出る。
途中から商人や旅人達が使っている道に出たので、森の外に出る前から、切り拓かれ踏み固められた道を進んでいた。
森の外に出ると、少し先から石で敷設された頑丈な道になっており、そこを商人や旅人が行き交っている。中には食糧を運んでいると思われる護衛付きの馬車も通っていくが、あれはソヴァルシオン行きだろう。到着する頃にはスキアも退治されているだろうから、気を付けるべきは賊か。今でも居るのかどうかは知らないが。
そんな集団とすれ違いながらも、ガーデンに向かう波に乗って進んでいく。
ガーデンまで伸びる石畳の道の両側には、まるで崖の様に背の高い草が生えて視界を遮っている。
幅の広い道をガーデンから出て来る者達と、ガーデンに向かう者達が片側に分かれて交差する。数が多い為に多少窮屈そうな様子なのに、道の両端を通る者はほとんど居ない。
というのも、道の両端に壁のように生えている草だが、所詮は背が高いだけの草。中に何が居るか分からない為に、道の端を通ると何かに襲われる可能性があるからだ。そのため、道の両端を通るのは主に警備をしている兵士や冒険者ぐらい。後は急ぎの者か。
しかし、別に通ってはいけない訳ではなく、その場合は自己責任というだけ。
ヒヅキとフォルトゥナは腕に覚えがあるうえに周囲の探知にも長けているので、道の端に出て足早に進むと、道を進む人をどんどん追い越して先へと進んでいく。
そうして移動速度を上げて休まずに進むと、ガーデンに入る為の列の最後尾が見えてきて、ヒヅキ達は道の中央の方に戻る。
二人が列の最後尾に並んだ時には、既に日が暮れてガーデンの門は閉まっていた。
列に並んでいる者達も思い思いに休んでいるが、警戒を怠ってはいない。ただ、中には他の者の警戒を頼りに、緩みきっている者も居るようだが。
ヒヅキ達は防水布を道の上に敷くと、その上に腰掛ける。
『わざわざ列に並ばずとも、防壁を飛び越えてしまえばいいのではありませんか?』
『それだと密入国になって、見つかった場合は色々と面倒になってしまうね』
『ヒヅキ様と私でしたら問題ないかと』
『……まぁ、それはそうだけれど、そうなると出る時も密出国しないといけないが』
『容易い事です』
『それはそうなんだけれどもね……』
次に出る時はエイン達と一緒の可能性が高いので、ヒヅキとしては正規の手続きで入国しようかと考えていた。しかし、どうやらフォルトゥナには、長いこと列に並ぶというのがお気に召さないよう。
それぞれ夕食を口にしながら遠話での会話を行い、ヒヅキは困ったようにフォルトゥナの方に視線だけを向ける。
視線の先では、ショッリの森の途中からフードを目深に被って顔を隠しているフォルトゥナの姿。
顔を伏せるようにしながらも、黙々と食事を口に運んでいる。
『まぁ、急ぎの用事もないし、手荷物検査と簡単な質問だけだから受けてもいいと思うけれど』
『それはいいのですが、検査の際の視線が鬱陶しいのです。流石にフードは脱がないといけませんし』
『あぁ、なるほど』
今までフォルトゥナの素顔を目にした者達の反応を思い出し、ヒヅキは納得する。
すれ違うだけであればそこまで問題はないが、向かい合って話をしたり、周囲を取り囲むようにして監視されている状態では、落ち着かないだろう。いくら職務中の兵士といえども、フォルトゥナの美貌は同姓でも魅了するのだから。
『やはりエルフというのが珍しいのでしょう。この国に来てから、あの村に居た家族以外でエルフは目にしていませんから』
『え?』
しかし、フォルトゥナは自身に頓着しない性格だからか、注目されるのが相手と異なる種族だからだと思っているよう。
『いえ、エルフに限らず、あの村を除いて人間の国では人間しか見ていませんね。排他的なのかどうかはまだ分かりませんが、やはり普段目にしない種族ですと目立ってしまうのですね。エルフは耳が尖っていて目につきやすいですから』
やれやれとでも言いたげに疲れた息を吐くフォルトゥナに、ヒヅキは真実を告げるべきか否かと考えるも、そんな事は別に気にするほどのことでもないかと思い直す。どちらにせよ、注目されている事に変わりはないのだから。




