再会68
「どうぞ」
アーイスは手に持っている道具をヒヅキに差し出す。
ヒヅキはそれを受け取ると、様々に角度を変えて確認していく。
その道具は多少の魔力は感じるものの、何の変哲もない20センチメートルに足りない長さの木の棒と、その先から飛び出した5センチメートルほどの真っすぐな鉄の細い針。
親指と人差し指、それに中指の3本で掴みやすそうな太さの道具ではあるが、どれだけ見てもそれだけだ。
しかし、魔法道具作製に必要な道具なので魔力で探ってみると、中に魔力回路が通っているのが判った。それも棒の部分だけではなく針の部分まで続いている。
「………………これは生きている?」
「!! 流石はヒヅキ様ですね」
念入りに探ってみた結果をヒヅキが驚いて思わず零すと、それにアーイスが強く反応して驚嘆の声を出す。
「これは生きているのですか?」
それにヒヅキがアーイスに問い掛けると、アーイスは真剣な表情で頷いた。
「はい。それは魔力回路を宿した生命体なのです」
「生命体……?」
「はい。秘技故に私も詳しくは知りませんが、どうやらその道具に命を吹き込むようで」
「……ふむ。なるほど。それは実に興味深い話ですね」
アーイスの話に興味深く頷いたヒヅキは、その横で遠話でフォルトゥナに問い掛ける。
『フォルトゥナは何か知っている?』
『はい。私は材料があれば同じ物を作れますので』
『へぇ。秘技らしいけれど、フォルトゥナは作れるんだ』
『はい。魔法道具作製に必要なので、自分で作れなければヒヅキ様のお役には立てないかと考え、学びました』
『それは凄い。フォルトゥナは優秀だね』
『あ、いえ! ヒヅキ様の為ならこれぐらい当然です!』
すまし顔のフォルトゥナだが、よく見れば口元や目元の端が僅かに動いているのが判る。しかし、それは誰にも気づかれる事はなかった。
『それで、どうやって道具に生命を宿すの?』
『それは道具の材料となる物。ヒヅキ様の持つ道具で言えば木材ですが、それを生命力と共に切り出すのです』
『? どういうこと?』
フォルトゥナの説明に、ヒヅキはアーイス達と話しながら内心で首を傾げる。生命力と共に切り出すという言葉の意味がよく理解出来なかった。
『生きとし生けるもの必ず生命力が存在しています』
『まぁ……そうだね』
生命力を人形に注ぐことが出来るヒヅキには、生命力は割と身近なモノ。それが出来るようになってからは、生命力という存在が朧気ながらも判るようになったほどに。
『流石はヒヅキ様! 生命力がお解りになられるのですね!』
ヒヅキが同意したことに、何故かフォルトゥナが興奮したような声音を出す。
『少しだけ、ね。でも、そんなに驚くことかな?』
『生命力を理解出来るというのには、絶対的に才能が必要になってきます。それでいて厳しい訓練を経てやっと感覚的に掴む事が出来るのです』
『そうなんだ。フォルトゥナもその厳しい訓練とやらを?』
『はい。と言いましても、情報を元に組んだ我流ですが』
『それは凄い』
『ヒヅキ様はどうやって?』
『……ウィンディーネと一緒に旅すると自然とね。あれは生命力を吸って生きている存在だから』
『そうだったのですか!?』
『知らなかった? 神様は大体そんな感じみたいだよ』
『そういった資料は無かったものですから。神自体過去の話に出てくるだけで、その中に生命力で存在を維持しているような話は出てきませんので』
『ふむ。なるほどね。助けてもらった話ばかりだったか』
『はい』
エルフの国の神にまつわる話を思い出したヒヅキは、ついでにカーディニア王国で収集した神に関する話を思い出すも、どれも似たようなもので、生命力を必要としていたような描写はまるでなかった。
それ故に、フォルトゥナの驚きも当然なのかもしれない。




