再会66
「それでですね、アーイスさん」
「え! は、はい! 何でしょうか?」
急に話を振られたアーイスは、少し挙動がおかしくなる。しかし、そんな事など気にせず、ヒヅキは話を続ける。
「アーイスさんならもしかしたらお持ちではないかと思うのですが、魔法道具を作る際に使う道具をお持ちでないですか?」
「!! そ、それは」
ヒヅキの言葉に、アーイスは言葉を詰まらせる。
「お持ちでしたら是非ともお借り出来ないかと思いまして」
アーイスの様子など気にせず話を続けるヒヅキの言葉に、アーイスは困ったようにしながら考える。それは既に答えを言っているようなものだが、隠すつもりはないのだろう。
思案するように口を閉ざしたアーイスから視線をずらして、ヒヅキはアーイス夫人に視線を向ける。
「夕食時にすいません。用件はそれだけですので、また明日にでも伺わせて頂きます」
「それでしたら、一緒に夕食は如何でしょうか?」
突然話を振られて一瞬驚いた夫人だったが、直ぐに柔らかな笑みを浮かべて、そう提案する。しかしヒヅキは首を横に振った。
「いえ、急な訪問でしたので私共は今日はこれで。それではまた明日にでも改めてお伺いいたします」
「そうですか? ヒヅキ様でしたら遠慮なさらなくてもいいのですが」
本当にそう思っているであろう声音で告げる夫人だが、ヒヅキは再度固辞する。
ヒヅキの返答に残念そうにする夫人とマリア。
そんな二人に、ヒヅキは明日の朝遅くに再訪する旨を伝え、了承を貰ってアーイスの家を離れる。その間もアーイスは考え込んだままであった。
アーイスの家を離れたヒヅキは、日が暮れてきた空を眺めながら村の門へと足を向ける。
『明日の朝までどうなさるのですか?』
『村の外で野宿かな』
『畏まりました』
『家の中がいいなら、何処かに部屋を借りるけれど?』
『ヒヅキ様とご一緒出来るのでしたら、外も内も同じで御座います』
『そう? 分かった』
フォルトゥナの答えにヒヅキは頷くと、門番に挨拶してから門の外に出た。
そのまま森の中に少し入ると、丁度よさそうな木を見つけて防水布を敷くと、二人はその根元に腰を下ろす。
根元に並んで座ると、飲み物をヒヅキが、食べ物をフォルトゥナが空間収納から取り出して、それぞれの分を渡す。
それを二人は受け取ると、少し遅い夕食を摂った。
『ふふ。今日もヒヅキ様とご一緒出来て光栄です』
上機嫌にそう言うと、フォルトゥナは更にヒヅキの方へと身を寄せる。
食事を終えて片付けも済めば特に何もする事が無いので、ヒヅキはフォルトゥナに見張りを任せて、先に眠る事にした。
夜も更けた頃に目を覚ますと、ヒヅキはフォルトゥナと見張りを交代して、遠話でフォルトゥナに眠るように告げる。
フォルトゥナは元気よく返事をすると、ヒヅキの肩に頭を乗せて眠りにつく。森に入ってから行うようになった眠り方であった。
ヒヅキは周辺の気配探るも、小動物や鳥ぐらいしか気配はない。村以外では人の気配もないし、当然ながらスキアの気配も感じられない。
そんな安全な見張りの時間は、耳元で聞こえる規則正しい寝息を聞きながら過ぎていく。
それも空が白みだした頃になると止まって、フォルトゥナが目を覚ました。
目を覚ましたフォルトゥナと朝の挨拶を行うと、朝食の準備を行う。
ヒヅキは取り出した水瓶から一緒に取り出したと容器へと水を注いでいく。
フォルトゥナは昨夜と同じ木の実を取り出して食事の準備をする。ガーデンで保存食を買い込んだものの、まずは前に採った木の実から消費していた。それももうじき無くなりそうだ。
そんな朝食を二人で摂った後、まだ時間もあるので食休みがてらのんびりと時間を過ごす。
そして太陽が昇って辺りが明るくなった頃。二人は立ち上がり片付けを済ませると、村に向けて移動を開始する。
休憩した場所は村からあまり離れた場所ではなかったので、ほどなくして村に到着した。




