再会60
『フォルトゥナに訊きたいのだが』
フォルトゥナの名前を呼ぶのと質問の内容を考慮したヒヅキは、通常の会話ではなく、第三者に聞かれる事の無い遠話を用いることにした。
『何で御座いましょうか?』
ヒヅキに合わせて遠話で返すフォルトゥナ。ヒヅキと遠話をする時のフォルトゥナ声は、弾むような明るさがある。
『アイリスさんとの魔法講義で最初に用いた指輪だけれど、何であんなの持っていたの?』
装着した者の魔力を微量ずつ吸う指輪。他には何の効果も無く、害しかなさそうな無意味な指輪であるので、嫌がらせ程度にしか用途がなさそうだと考えたヒヅキは、そんな物をわざわざフォルトゥナが所持していたことに疑問を抱いた。
『あの指輪は、私が初めて製作した指輪でして……』
恥ずかしそうに答えを返すフォルトゥナに、ヒヅキは少し納得した。思い返せば、装飾の類いの無い簡素な指輪だった気がする。
『それで持っていたの?』
『はい。不出来な指輪でしたので、あれを見て増長しないようにと戒める為に』
『なるほどね』
納得したと頷いたヒヅキは、フォルトゥナの魔法道具製作の腕を少し知る。効果はともかくとして、初めての作品にしては出来がよかった気がした。
それを聞いたヒヅキは、もう1つ気になったことについて質問する。
『それで、その指輪は何処に持っていたの?』
アイリスの講義の時に感じたヒヅキの疑問に、フォルトゥナは忘れていたというような表情をした後、顔を青ざめながら慌ててヒヅキに言葉を返す。
『あ、あ、も、申し訳ありません! じ、実は私は自分の周囲の空間に、多少の物を収納出来まして!』
早口気味に慌てて口にすると、今にも壊れそうな表情でヒヅキに目を向ける。
その怯えが強く浮かぶフォルトゥナの表情に、ヒヅキはフォルトゥナが何を考えているのか直ぐに思い至り、まずはその勘違いを訂正することにした。
『別に私は怒ってないよ。フォルトゥナを責める気もないし、見捨てるつもりも無い。それに、隠していたとも思っていないから』
ヒヅキは少し見捨てるつもりが無いと口にするのに抵抗を感じたものの、そこで一瞬でも言い淀んでは駄目だと理解していたので、そこは気力で口を動かした。そしてその効果は絶大で、先程まで絶望したような表情を浮かべていたフォルトゥナだったが、ヒヅキの言葉で気力が戻ってきたのが直ぐに判る。
『あ、ありがとうございます!!』
涙を流して感謝を口にするフォルトゥナ。その顔は喜色に満ちていて幸せそうだ。
そんなフォルトゥナの姿に苦笑しつつ、ヒヅキは収納について問う。
『それで、その自分の周囲に物を収納できるってのは、取り出しも自由ってこと?』
『はい。取り出しは簡単で、その際はある程度は好きなように取り出せます』
『? どういうこと?』
『例えば指の間に出現させたり、目の前の床に出現させたりと、手が届く範囲ぐらいでしたら、任意の形で取り出せます』
『へぇ。それは凄い』
手が届く範囲とはいえ、任意で取り出せるのであれば使い勝手がいいだろう。例えば武器でも収納していたら、次々新手で戦える。後は収納時も任意であれば、武器の交換も思いのままで、敵から見れば戦いにくい相手かもしれない。
『それは収納時も自由なの?』
『はい。こちらも手が届く範囲の物であればですが』
『なるほど。それは使い勝手がよさそうだ。その収納中は収納した物はどうなっているの? 時の流れとかさ』
『時間の流れはゆっくりですが進みます』
『他者が干渉できる?』
『かなり複雑ながらも不可能ではないですが、術者よりもかなり上の使い手でなければまず無理ですね。その使い手も成功確率はそこまで高くはないかと』
『へぇー。それならば便利だな。それは修得は難しいの?』
『ヒヅキ様でしたら直ぐに覚えられるかと!』
確信している様に輝く表情で即答したフォルトゥナに、ヒヅキは密かに息を吐いた。




