再会59
ヒヅキ達は商人区画で買い物を済ませると、そのままシロッカス邸を目指して進んでいく。
商人区画からシロッカス邸が建つ富裕層向けの居住区画までは少し離れているが、その間にある通りも割と大きなもので、そこそこ活気に満ちている。
それでも、ヒヅキが借りている部屋の窓まで届いてくる賑やかな音は、この通りよりも商人区画の方が大きい。
今回は何とか日暮れまでにシロッカス邸に戻ってこれたヒヅキは、一度部屋に戻って着替えを済ませる。
その後、ヒヅキは侍女に連れられてフォルトゥナと共に食堂に場所を移すと、シロッカスとアイリスと共に夕食を食べた。
夕食を終えた後は部屋で少し待ってから、案内されて風呂に入る。
風呂に入り終えた後、水を飲みながら開け放たれた窓から外を眺める。相変わらず遠くから聞こえてくる喧騒だが、少し前にそこ居たからか、ヒヅキにはいつもと少し違うもののように聞こえた。
水を飲んで片づけると、窓を閉めてからフォルトゥナと共にベッドで横になる。
今日1日を振り返って、予定していた半分ほどは達成出来たかなと考える。後はプリスが手紙を読むかどうかだが、それで一緒に旅が出来なくなったとしても、こちらは努力をしたということにしよう。ヒヅキはそう考えつつ、明日の予定を組み立てていく。
明日は朝食を食べた後、シロッカス邸を出てガーデンの外を目指す。南門から出た後は、そのまま南下してショッリの森に入って名も無き村を目指す。
名も無き村ではアーイスを訪ねて魔法道具の製作に必要な道具を借りるか譲ってもらう予定ではあるが、そもそもあるかどうかも判明していない。しかし、ヒヅキはその心配はしていなかった。フォルトゥナの話通りであれば持っている可能性が高いのだから。
明日だけではなく、名も無き村到着後の事まで大まかに考え、小さくため息を吐く。名も無き村ではヒヅキもフードを目深に被らなければならないかもしれない。
色々と考えていると、顎の下から規則正しい穏やかな寝息が聞こえてくる。それを聞きながら、ヒヅキも寝るかと考え眠りについた。
翌朝。
「ん?」
まだ薄暗いなか目を覚ましたヒヅキは、何か違和感を感じて僅かに眉根を寄せる。
「……なんだ?」
しかし、その正体は判然としない。
「勘違い、か?」
部屋には、ヒヅキ以外にフォルトゥナとウィンディーネしか居ないのは確認済みなので、誰かが侵入しているという事はない。かといって、シロッカス邸の内外にも特に変わった様子は感じられない。
「?」
どれだけ探ってみても何もないので、ヒヅキは勘違いだったかと思考を切り替える。
窓の外に目を向けると、まだ暗さが大分残っていて朝食まで結構時間がある。旅の準備は昨夜までに終わらせているので、直ぐにでも旅立たなくてはいけなくなっても、背嚢1つ背負うだけで直ぐにでも旅に出れた。
「食料は大丈夫だし、服の方も洗濯してもらったから問題ない。その他は背嚢に入れたままだからな」
他に忘れ物は無いよなと考え、特に思い浮かばなかったので、大丈夫かと安堵すると、胸元から呻くような声が聞こえた。
そちらに視線を向け、目を覚ましたフォルトゥナに朝の挨拶をする。
「おはよう」
「ヒヅキ様おはようございます!」
毎度ヒヅキとの挨拶の度に緊張と幸せそうな様子を見せるフォルトゥナ。
ヒヅキの上からフォルトゥナが退くと、ヒヅキは身を起こす。
「まだ朝食まで時間はあるから、今日出立する前に忘れ物がないか確認しておこう」
「はい!」
その前に水をと思い、ヒヅキはフォルトゥナと共に背嚢から取り出した水を飲む。
水を飲み終わった後、二人は自分の荷物を確かめ、忘れ物がないのを確認する。
「ああ、そういえば」
荷物の確認を終え、全ての荷物を仕舞い終えた後、朝食に呼びに来るまでの時間を使って、ヒヅキは思い出した事をフォルトゥナに訊いてみることにした。




