再会58
そうして周囲に目を向けながら通りを抜けると、次の通りに移動していく。
プリスの家が近づくほどに人通りは減っていくが、代わりに見回りをしている兵士の姿が目につくようになる。近づいている区画が区画なだけに、当然だろう。王城も近いのだから。
そんな警邏中の兵士の横を通り抜けながら、先へと進んでいく。
途中から真っすぐ移動したおかげで比較的早めに臣下達が暮らす区画が見えてくるも、その入り口には見張りの兵士が立っている。
しかし、ここで審査されることも、呼び止められることもない。それがあるのは、余程風体が怪しい者だけだろう。
フォルトゥナはフードを目深に被っているのだが、別にそれは珍しくも無いのか、見張りの兵士に何の反応も無い。それ以外は特に怪しいところの無いヒヅキ達は、入り口で留められるような事にはならなかった。入り口に立つ数人の兵士の一人が、ヒヅキを知っていたのか、ヒヅキを見て僅かに反応を見せたぐらい。
入り口を過ぎると、記憶に在る道順を辿って目的の家を目指す。
区画に入って、中央から2本横の通りを少し進む。プリスの立ち位置を考えれば意外なほど中央側にその家はある。
この区画はガーデナー城から少し離れてはいるも、両者の間には兵舎をはじめとした防衛施設が幾つか建つのみで、他は大軍が展開できそうなほどに広く間がとられている。
プリスの家が建つ区画は、もしもの為の防壁代わりも期待されてはいるものの、同時に謀叛を警戒して、地位の高い者はガーデナー城側に家を持つ。
プリスは第3王女付きの護衛なのでそこまで地位は高くないが、かといってそこらの貴族に負けるほど低くも無い。忠誠が向いている先が主として仕えているエインに対してとはいえ、それでも王家への忠誠心も決して低くはない。
そんなプリスなので、もっとガーデナー城側に家が在ってもおかしくはないし、外の区画からの護りとしての役割も担う、もっとも外側の場所に家が在っても不思議ではないほどの実力も備えている。
だというのに、現実にはプリスの家はやや中央寄りの場所に建っている。これは中堅どころの貴族の立ち位置なのだが、プリス邸が建つ周囲に居を構える者達と比較すると、プリスだけ1つか2つほど格が上で、内情を知る者からすれば、プリスは明らかに浮いていた。
ヒヅキは国の中枢の内情などまるで知らないので、その事を疑問に思ったことはない。なので家主であるプリスだけではなくエインにもその事を尋ねていないし、聞かされてもいなかった。
静寂の中、入り口から足早に一直線に進んだおかげで、プリスの家には少し早くに到着した。
シロッカス邸よりは少し小さいものの、それでも大きな家。門を通り小さな庭のようなモノを横目に玄関前まで移動すると、扉を叩く。
「………………」
そのまま暫く待ってみるも、誰の反応も無い。逡巡した後、ヒヅキは気配察知で家の中を探る。
「……留守か」
家の中に誰か居る気配がないので、諦めて戻ることにする。その前に、背嚢から手紙を取り出して扉の隙間から中に入れておく。
「多分これで大丈夫だろう」
家主が変わっていない事を祈りつつ、ヒヅキはプリスの家を後にする。あとはプリスが帰宅するのかも気になるが、気にしてもしょうがない。
プリスの家を離れた後、まずは臣下が暮らす居住区画を出る。その際も止められることも声を掛けられることもなかった。
居住区画を出ると、そのまま商人区画の方へと向けて移動していく。帰りの時間を考えると店を回る時間は限られているが、保存食ぐらいは直ぐに見つかるだろう。
そう考えつつ、通りを進んでいく。フォルトゥナは遅れる事なく静かにヒヅキの少し後ろをついてきている。
程なくして、商人区画に到着した。




