再会55
朝食は穏やかな空気のなか終わった。
ヒヅキは食器が下げられるのを横目に、シロッカスに明日ガーデンを発つ事や、それが一時的なものでまた直ぐに戻ってくる事。後は戻って来ても長居はしない旨も少し告げる。
その後にアイリスに魔法講座の今後の予定を簡単に話して、詳しくは場所を移して伝える事にした。
シロッカスが諸々に理解を示した後、ヒヅキは場所を移す途中でフォルトゥナにアイリスへの説明を任せてから、一度部屋に戻って背嚢を回収して、侍女の案内で空いている大甕が在る台所の外へと向かう。
大甕のある場所まで移動すると、そこには簡易的な壁と屋根が付いた物置が在り、そこに同じような大きさで、尚且つ色艶まで同じ大甕が5つ、台車に載せられた状態で並べられていた。その内の3つは水で満たされふたをされていたが、2つは空っぽであった。
「こちらの2つでしたらお好きなようにお使いください」
その空っぽの2つを手のひらで示して、侍女はヒヅキにそう告げる。
「ありがとうございます」
ヒヅキが侍女に礼を述べると、侍女はヒヅキの後方に移動して静かに待機する。料理などで使う水である以上、監視という意味合いもあるのだろう。
それを当然だろうと思いつつ、ヒヅキは気にせず背嚢から水瓶を取り出し、それを大甕の上で大きく傾ける。
そうすると、水瓶の中から次々と水が勢いよく溢れてくる。1メートルほどの筒状の水瓶から、見た目以上の量がこんこんと湧き出ていき、大甕を満たしていく。
それから時が経ち、高さ160センチメートルほどの楕円形で、二人で抱き着いても手が届くか怪しい大きさの大甕が既に3分の2ほど満たされても、水瓶からは変わらぬ勢いで水が出てくる。
それを観察しているヒヅキの後ろで、ここまでヒヅキを案内した侍女は静かに後ろに控えながらも、驚愕に目を丸くしていた。
侍女のそんな反応に気づいてはいるが、ヒヅキは気にせず大甕を満たしていく。
(これが一人の1日分?)
1つの大甕を水で満たしたところで、大きく傾けていた水瓶を戻して、もう1つの大甕の方に場所を移す。そして、再度水瓶を大きく傾けた。
(これは風呂でも焚けというのか?)
衰える事なく出てくる水に、そんな疑問を抱く。飲料だけではなく生活用水全般として考えても、やはり一人が1日で使うには確実に多いだろう。もしかしたらウィンディーネの話が間違っているのだろうかと考え、次に水瓶の方がおかしくなったのかと考える。
(それとも、実験の最中に量の制限が戻った、とか?)
ふとそんな考えが浮かんだものの、その場合の1日とは最初に使った時から数えてという事になる。無論、その1日という条件も事実かどうか不明だが、それでもここ数日は朝食後から昼までアイリスへの魔法講座に参加していた為に、そもそも水瓶を使っていない。
(という事は、壊れているのか量の設定がおかしいのか)
その可能性を考えつつ、もの凄い勢いで大甕を満たしていく水を眺める。
大甕を1つ満たしたというのに、未だ勢いが衰える事なく湧き出る水瓶。このままもう1つの大甕も満たしてしまえば、上限が分からなくなってしまう。それでもその場合、最少でも大甕2つ分は水が出るという事になるので十分すぎるだろうが。それこそ四人でもあまり気にする事なく水が使える量だ。
そんな事を考えていると、今の時間が気になり、背後に控えている侍女に現在の時刻を問う。
「もうすぐ昼で御座います」
ヒヅキの問いに、侍女は外を確認してからそう答える。
「もうそんな時間でしたか。ありがとうございます」
答えた侍女に顔を向けて礼を言った後、大甕の方に目を戻す。そこには半分以上水で満たされた大甕。
まだまだ水が出てきそうな水瓶を眺め、このままでは昼食が出来ても水が出続けるなと諦め、水瓶の傾きを戻す。
「まぁ、十分か」
かなりの水で満たされた2つの大甕に目を向けて、量的には十分だと満足げに頷く。
その後に水瓶を背嚢に戻した後、ヒヅキは侍女に礼を言って戻ることにする。
侍女は水が入った2つの大甕にふたをした後、ヒヅキを先導してまずは部屋の方へと向かって移動を始めた。




