再会52
扉越しの侍女の問いに、ヒヅキは扉に近づき開くと、入る旨を伝える。
それから扉を一旦閉めて手早く着替えを用意した後、侍女の案内でヒヅキとフォルトゥナは風呂場に場所を移した。
脱衣所で服を脱いだ後、風呂場で身体を洗ってから湯船に身を沈める。
相変わらず大きな湯船だが、ヒヅキとフォルトゥナ以外は誰も居ない。
浴槽は泳げそうな広さがあるというのに、隅の方に浸かるヒヅキの真横には、フォルトゥナが浸かっていた。
そんな風に贅沢な浴槽の使い方をした後、のぼせない内に外に出て、服を着る。
脱衣所の外では、洗濯物を回収しようと大きな籠を持った侍女が待機しており、ヒヅキは諦めてその籠の中に脱いだ服を入れて洗濯を頼む。
フォルトゥナもそれに続いた後、侍女はヒヅキ達を部屋まで案内してから、籠を持って邸の奥に消えていった。
部屋に戻った二人は、明かりもつけずに窓を開けて涼む。
窓の外から入ってくる涼しい風を受けながら、二人は背嚢から取り出した容器に同じく背嚢から取り出した水瓶の水を注いでから、ゆっくりと傾けていく。
(この水瓶から出る1日の水の量を量った方がいいだろうか?)
座りながら窓の外を眺め、ヒヅキはふとそんな事を考える。現状の使用状況で困った事はないが、1日でどれだけの量が出るかは把握しておいた方がいいだろうと考えたのだ。しかし同時に、今後も大量に使うという事はないだろうし、という考えも浮かぶ。
(……いや、今後はエイン殿下――エインさんとプリスさんも旅に参加するから、水に困らない今の内に調べておいた方がいいな)
エインの呼び名は今の内に変えておいた方がいいかと考えたヒヅキは、敬称を一般的なモノに変更する。そうしつつ、旅に出てから何かあっては遅いかと結論付けた。
それに水の量が決まっているという1日とは、日付が変わる辺りの事を指すのか、制限が解除された後に最初に水を注いだ時から1日なのかも確かめたかった。
それらを考えながら、明日の予定を組む。
(明日は実験を行た後にプリスさんのところに顔を出してから、ガーデンを出る準備を始めるかな)
水瓶の1日という制限を考慮して、ヒヅキは念のために出発を実験を行った翌日とする。その間にガーデンを巡り、必要そうなモノを準備していく予定だが、思い浮かぶのは保存食ぐらい。他は問題ないぐらいには揃っていた。
(それに、そんなに長い移動でもないからな)
目的地である名も無き村が在るのは、急げばガーデンから1日掛からずに到着出来るショッリの森の中。
移動期間は森の中の方が圧倒的に長いが、それでもゆっくり進んだとしても片道10日も掛からないだろう。迷わなければであるが。
そして、目的地である村では食料などの補給も叶う可能性が高いので、そもそも保存食も必要かどうか怪しいところ。
(まぁ、食料は今後も役に立つからいいのだが)
最終的にはガーデンを出て、遺跡を巡りながら人探しをするので、食料は在っても困らない。こちらは旅程が不明で、大まかな予測も難しいのだから。
それでいて人数が現在の倍になるので、食料の消費も必然的に増える。そのことにヒヅキは内心で溜息を吐きたくなりながら、そのまま付いてくる者達についても考える。
人探しの旅に同行予定なのは、フォルトゥナ・エイン・プリスの三人。フォルトゥナだけは既に一緒に行動しているが、その事についてヒヅキは諦めていた。
次にエインとプリスだが、こちらは約束がある以上、一度一緒に旅をしなければならない。しかし、それ以外は明確な約束はしていないので、短期でもいいだろうとヒヅキは考える。
それと共に、エインとプリスについてヒヅキは疑問に思う事があった。二人はヒヅキに思いを寄せているといった言動を繰り返していたが、それの意味が分からない。というのも、ヒヅキはそんな価値が自分にあるとは思っていない。
(好意を不要と切り捨てているような男を本当に好むとは思えないから、可能性としては利用価値が在るから? ……いや、権力を捨てたのならば、確実ではないか。ならば他に? 一人でスキアと戦える力は十分価値が在るだろうが、よく分からないな。恩などと言うが、俺がやった事など、流れでスキアを滅したぐらいだし……ああ、ついでに女王の軍を潰した事があったか)
ヒヅキはそこまで考え、たかがそれだけだと内心で首を捻る。フォルトゥナもよく分からないが、こちらは諦めたので深く考えない事にした。その方が心に優しいのだから。




