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勇者と愚者

 マリアが村長の家から外に出ると、村の外から獣の咆哮に似た音が聞こえる度に、村中のいたるところから悲鳴や怯えの声が聞こえてくる。

「……お父様、あの音は一体何の音でしょうか?」

 マリアは、隣でマリアがはじめて見る険しい表情を浮かべている父親に恐る恐る問い掛ける。

「あれはスキアの叫び声だ。スキアの中にはああして声……というよりも音を発するものがいる。そして、大抵の場合他のスキアとは違う特徴を持っているスキアは、普通のスキアよりも強い」

 父親の苦しそうな、それでいて覚悟を決めたような声音が、これから訪れるであろう未来を表しているようで、マリアは思わず息を呑んだ。

 その時、一際大きな騒ぎとともに、村を囲む柵が壊された音が響く。

 驚いてそちらに目を向けたマリアは、一瞬呼吸をすることを忘れてしまう。

 マリアの視線の先では、四足歩行の獣の背に鳥の羽のようなものが生え、尻尾が六本頭の蛇のようにうねっているスキアが、村を囲っていた柵を踏み壊したところであった。そのスキアの口元には未だ血が滴り落ちている村人の一人がくわえられていた。

「うっ」

 新たに二足歩行で腕が四本、背中に翼を生やしたスキアが加わり、二体のスキアに次々と村の建物が壊され、更には村人が踏み潰され、噛み砕かれ、引き裂かれていくのを少し離れた場所から目撃したマリアは、風に乗って鼻に届く様々なモノが焼ける臭いや鉄の臭いなどをいだことも相まって、胃のより込み上げてくる気持ち悪さに思わず口元に手を当てた。

「あれがスキア……もう終わりだ……」

 マリアは微かに聞こえたその呟きがした方に目を向けるも、村長の家に居た全員が出ているために誰の呟きかまでは分からなかった。

「皆さんしっかりしてください!」

 マリアはそんな彼らの様子に、先ほど感じていた気持ち悪さを忘れ、後ろに居る全員に必死でそう訴えかけるも、皆恐怖に濁った目をスキアに向けるだけで、誰も反応を返さなかった。

(これで代表者たちですか……いえ、あれの前では仕方ないのかもしれませんね)

 マリアは一瞬冷めた目を向けるも、すぐにそう思い直して視線を前に向ける。自分も一度対峙してなければああなっていたかもしれないと内心で苦笑しながら。

 しかし今は急を要する時、そんな怯え立ち竦む者たちの説得を早々に諦めたマリアは、彼らを意識の外に追いやる。

「お父様、微力ながら私は少しでも村の皆さんの手助けに行ってまいります」

 マリアは父親に一礼すると、そのまま駆け出そうとして……その前にマリアに父が問い掛ける方が若干早かった。

「どう助ける?この既に八方塞がっている状況で……容易に村から逃げられはしないぞ?」

 マリアの父は視線を村の外に向ける。マリアもそれにつられて外を見ると、そこには村の外へ逃げようとした村人を器用につたを動かして絡め捕ってはその村人を大きな口に放り込む、巨大な花のようなスキアがうごめいていた。

 そのスキアは自身の探知能力と俊敏性を活かして、村のどこから村人が逃げだしてもすぐさまその場所まで移動してみせ、漏れ無く村から逃げる獲物を捕食していた。

 それを確認したマリアは父親の方を向くと、笑顔を浮かべた。

「ご心配なく。私は逃げるためではなく生き残るためにあちらに伺うのですから」

 マリアのその返答に、マリアの父は「そうか」と、その言葉を噛み締めるかのように一度頷いた。

「では、行ってまいります!」

 改めて一礼したマリアは今度こそ駆け出して……並走してくる父親の方に顔を向けた。

「別に私は戦わないとは言っていないぞ?」

 その視線に不敵な笑みを浮かべた父親に、マリアはどこか呆れたように小さく笑ったのだった。

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