再会51
そこまで考えたところで、では適応する魔法もまた全てになるのだろうかと、ヒヅキは疑問に思う。もしもそうであれば、グノムやウィンディーネが話していた通り、万象の理はあらゆる可能性を秘めている事になる。
「………………」
改めてそれを突き付けられたヒヅキはどうしたものかと思案するも、たとえ何でも魔法が使えるのだとしても、実際には光の魔法以外は上手くいっていなかった。
ヒヅキは魔法に関する知識が乏しい。それは魔法が秘匿技術であるというのもあるが、それは理由の一つでしかない。実際は秘匿されているのはかなり上位か特殊な魔法のみで、他は術者次第では教えてくれたりする。
だというのに、ヒヅキが魔法に関して知識が不足しているのは、人間にとって魔法というものはあまり縁が無い為に、一般人は凄いと思ってもあまり関心を持っていなかった。精々が使えるなら便利だろうな程度。それは人間にあまり適性が無いからだが、そのせいで魔法は冒険者などの特殊な存在が扱うものという認識が広まっていた。その結果、魔法に関する知識は人間界では収集しにくい環境になっていて、いくら各地の図書館を回ったり、本を熱心に蒐集したとしても、期待通りにはいかなかったのだ。
これがエルフの国であればまた話が変わっただろうが、他国に流れる知識はたかが知れているというもの。
それでも全く知識が無い訳ではなく、本当に多少だが、ヒヅキは幾つか魔法に関して知識は持っていた。
その知識を元に、旅の休憩中や余暇に試した事はあったのだが、結果はどれも失敗に終わっている。
ウィンディーネなどは、ヒヅキの魔法は望めば何でも出来る魔法だと口にするのだが、その成果は前述の通り。
フォルトゥナがアイリスに対して行っている魔法の講義にヒヅキが参加するのも、その辺りが関係している。
ヒヅキは強力な魔法を行使し、巧みな魔力操作を行うが、事魔法の知識に関しては、一般人よりは詳しい程度なのだから。
そんなヒヅキでも唯一扱える光の魔法ではない魔法で、最も得意な魔法である身体強化だが、実はこれ、修得したのは偶然の産物であった。下地があったとはいえ、本来得るはずの無かった魔法。
ヒヅキが最初に身体強化の魔法を使ったのは、力を得た時。しかし、それはヒヅキが発動させたわけではない。どうやって発動したのか、当時のヒヅキにはまるで理解出来なかったし、そんな余裕も無かった。
事が済んだ後は身体中の骨が砕けて死にかけたほど。その間に中で動きがあったようで、そのおかげで一命を取りとめる事が出来た。しかし、過ぎた時は戻らない。
それから後は、ヒヅキはひたすらに己を鍛えて知識を蓄えた。
結果として、その最中に偶然身体強化を発動したのだった。身体が覚えていたのだろう。もしくは別の思惑が働いたのかもしれないが。
そんな経緯がある為に、普通の魔法というものをヒヅキは修得していない。周囲を照らす光を出す為に、砲弾にして爆弾でもある光球を流用しているぐらいなのだから。
『多分、フォルトゥナのその結果は正しいだろうから』
『と、申しますと?』
全てに適性があるというフォルトゥナの言葉をヒヅキが肯定すると、はじめての結果で困惑しているフォルトゥナは、どういう意味かと首を傾げた。
『使えるかどうかは別にして、私は多分全ての属性に適性があるって事』
『左様でしたか! 流石はヒヅキ様で御座います!』
フォルトゥナは驚きを表情に出しつつ納得すると、平伏せんばかりに頭を下げる。それに困ったような顔を浮かべつつ、ヒヅキは頭を上げるようにフォルトゥナに告げた。
ヒヅキの言葉を受けて数秒の後、フォルトゥナはゆっくりと頭を上げる。
そうしてフォルトゥナが完全に頭を上げたところで、見計らったように扉が静かに叩かれ、風呂の準備が整ったがどうするか、というような侍女の問いが扉越しに投げられた。




