再会44
そこまで考えたところで、遠話で伝えればウィンディーネにバレずに作り方を教えることが出来るだろうと思うも、しかし実際に作った時点で露呈してしまうので意味がない。
ウィンディーネがどういうつもりでヒヅキに人形の作り方を教えたのかは不明であるが、それでも一応特別という言葉を使っていた以上、いくらフォルトゥナでも軽々に教えるのは危険であろう。
悩みはしたが、ヒヅキは今は教えないということで保留にした。教えるのであれば、ウィンディーネが去った後か、倒せるようになってからだろう。もしくは、素直にウィンディーネにフォルトゥナへ教えてもいいかのお伺いを立てるか。
その可能性を並べて考え、許可を求めるのが一番安全かつ可能性が高いとの答えを導き出す。
(不本意ではあるが、相手が悪いからな……ウィンディーネを倒すのは不可能だろうし)
少なくとも竜神以上の存在であるウィンディーネが相手では、ヒヅキでも勝てない。竜神に勝てる可能性があるフォルトゥナでも、おそらくウィンディーネには敵わないだろう。
(あのエルフの神で同格だから……まぁ、倒せる可能性が在るとすれば、俺の中に居るというあの声の主ぐらいか)
ヒヅキの記憶の中で唯一ウィンディーネに対抗できそうな存在である声の主だが、その詳細については不明。しかし、ヒヅキの中の力を抑える為にウィンディーネが施した力をものともしなかったその声の主は、圧倒的な力の持ち主なのだろう事は理解出来た。
だからといって頼めるかといえば、そんなことはないので、考えるだけ意味がないのだが。
『え、えへへ。ヒヅキ様に褒められるのは嬉しいです!』
ヒヅキがそんな事を考えていたところに、フォルトゥナの照れたような声が届く。
『何か頼む事があるかもしれないから、その時はよろしくね』
『はい! お任せ下さい!!』
とても気合の入った声に、ヒヅキは僅かに苦笑する。
しかし、フォルトゥナが予想以上に優秀であったことに、ヒヅキは別の笑みを口の端に浮かべた。とはいえ、そこまで利用する予定も無いので、あまり出番もないだろうが。
『さて、そろそろ寝ようか』
『はい!』
会話をしている間に夜も更けてきたので、ヒヅキは窓を閉めると、ベッドに移動する。
『遠話も大分慣れてきたかな』
『はい! とても上手です!』
『そう? ならばよかった』
ベッドの上に横になり寝る体勢になりながら今日の成果を確認したヒヅキは、フォルトゥナの賞賛を受けながら最後に遠話の感触を確かめると、眠ることにした。
翌日もヒヅキは早くに目を覚ます。
「…………」
薄暗い室内の天井を眺めながら、ヒヅキは昨日の事を振り返り、今日の予定を考える。
今日は職人区画に赴く予定ではあるが、昨日の通りの様子から、あまり期待は出来そうも無かった。それでも一応赴いて確認した後、そのついでに、もしもフォルトゥナが魔法道具を製作する場合に必要な物があるかどうかの確認もしておきたかった。
(まぁ、流石に鍛冶は現実的ではないが、ちょっとした道具なら旅先でも作れそうではあるか。材料の魔鉱石は手元に在るからな……まだ余裕があるとはいえ、どこかで補充したいところだが)
魔鉱石は魔力濃度が高い場所でなければ中々見つからない。しかしその場合、魔物が住み着いている可能性が高いので油断はできない。
(人工的に作る方法もあるが、それでは弱いからな。人形作りには向いていない。それにもしかしたら、あの遺跡の地下を掘れば魔鉱石が在るかもしれない)
ガーデンを発った後、ヒヅキは向かう予定の場所を思い出し、もしかしたらと考える。
(念のために採掘用の道具を揃えておくか)
その為に必要な道具を思い浮かべ、背嚢の中身も思い出す。それと共に、今日商人区画に赴いた際に不足している道具を見つけたら購入しておくかと予定を追加しておく。
(ま、あったらいいがな)
魔鉱石は元が宝石や水晶といった少し特殊な石であるので、何処でもあるという訳ではない。なので、ヒヅキは道具は用意しても過度な期待はしない様に内心で自分に言い聞かせた。




