再会42
そんな掃き溜めのような場所を油断なく目にして、ヒヅキはここがシラユリが気にしていた、最近来て働かない者達なのだろうと予想する。
(これは避難してきたというよりも、追い出されたのではないか?)
目に映る者達の様子に、ヒヅキはおそらくそうなのだろうという妙な確信を抱く。それと同時によくガーデンに入れたものだと思うも、思い出してみれば、危ない物さえ持ち込まなければ、ガーデンの入国審査は通れそうな気がして、そんなものかと考えを改めた。
物が散乱する合間を縫って僅かな道を少し進み、周囲の様子を確認する。
そこに居る人々は沈んだ表情で地面を見ている者が多く、ヒヅキ達に興味を示すものは少ない。それでも居ない訳ではないようで、中にはジッとヒヅキ達の動向を観察する者達も居た。
『このような貧民窟で何をなさるのですか?』
周囲の様子を気にする事なく、フォルトゥナはヒヅキに遠話で問い掛ける。
『特に用がある訳ではないよ。ただ、どんなところか一度直接見ておきたかっただけ』
『そうでしたか』
『うん。だから、そろそろ帰ろうか』
『はい』
軽く見て回っただけで興味を失ったヒヅキは、フォルトゥナにそう伝えて帰る為に振り返った。
「お前らこんな場所に何の用だ?」
しかし、そこに横合いから男の低い声が掛けられ、ヒヅキは動きを止めてそちらに顔を向ける。
顔を向けた先には、背丈が高く周囲よりは身なりのいい、筋肉質の男が近寄ってくるところであった。
男はヒヅキの前で立ち止まる。男の方が背が高いので、見下ろしてくる形になり、また体格も良いので圧迫感がある。
それでいて強面なのだから、一般人であれば大人でもビビるのかもしれないが、ヒヅキにはただの大きい人にしか思えない。その気になればいくらでも殺せるし、逃げるにしても一緒に居るのがフォルトゥナである以上、同行者を気にする事なく、もの凄く簡単に逃走可能なのだからしょうがない。
「道に迷いまして」
ヒヅキは男に向けて、さも困ってますといった顔でそう告げる。
「迷った? 迷ったね……まぁいい。なら通りまで連れて行ってやるからついてきな!」
男は観察するような目をヒヅキに向けると、少し後ろに居るフォルトゥナにも同様の目を向けた。その後、顎でヒヅキ達が来た道を指し示すと、偉そうに告げて先に進みだした。
『行くよ』
『はい』
貧民窟にはもう用事もないので、ヒヅキは大人しく男について行く。
男はヒヅキ達を気にしつつも無言で進み、入り組んだ建物の間を入ると、そのまま更に進んでいく。
「それで、アンタらの本当の目的は?」
その道中、足を止めた男は振り返ると、ヒヅキ達に問い掛ける。
「ですから、道に迷ったと」
「はっ! お前らみたいな油断できない奴が道に迷うとも思えんがね」
弱った様に出したヒヅキの言葉を男は鼻で笑うと、鋭い目をヒヅキに向けてきた。
「そう言われましても、道に迷ってしまったのですからしょうがないではないですか」
困惑した表情と声音を心がけながら、ヒヅキは男に言葉を返す。
「……ま、面倒事を持ってこないというのであれば、そういうことにしてもいいが……」
諦めたように息を吐くと、男は肩を竦めた。
「面倒事も何も、私達はただ迷っただけですから」
困惑している演技を継続しながら、男の言葉に返事をせずに、ヒヅキは先ほどと同じような事を繰り返し言葉にする。
「……そうか。まぁいい。通りまでもうすぐだ」
男は少し間を置くと、ヒヅキ達に背中を向けて歩き出す。
ヒヅキ達がしばらく男に付いていくと、喧騒が大きくなってくる。
「ほら、このまままっすぐ行けば通りに出る。もう迷うんじゃないぞ?」
狭い道を横に退くと、男は人が行き交う道の先を目線で示した後、ヒヅキ達に忠告した。
「ご親切にどうもありがとうございます。気を付けます」
軽く会釈して男の前を通ると、ヒヅキ達は何事もなく通りに出る。
その頃には日暮れ前で周囲が薄暗くなっていたので、通りを足早に進んでヒヅキ達はシロッカス邸へと帰るのだった。




