表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
600/1509

再会42

 そんな掃き溜めのような場所を油断なく目にして、ヒヅキはここがシラユリが気にしていた、最近来て働かない者達なのだろうと予想する。

(これは避難してきたというよりも、追い出されたのではないか?)

 目に映る者達の様子に、ヒヅキはおそらくそうなのだろうという妙な確信を抱く。それと同時によくガーデンに入れたものだと思うも、思い出してみれば、危ない物さえ持ち込まなければ、ガーデンの入国審査は通れそうな気がして、そんなものかと考えを改めた。

 物が散乱する合間を縫って僅かな道を少し進み、周囲の様子を確認する。

 そこに居る人々は沈んだ表情で地面を見ている者が多く、ヒヅキ達に興味を示すものは少ない。それでも居ない訳ではないようで、中にはジッとヒヅキ達の動向を観察する者達も居た。

『このような貧民窟で何をなさるのですか?』

 周囲の様子を気にする事なく、フォルトゥナはヒヅキに遠話で問い掛ける。

『特に用がある訳ではないよ。ただ、どんなところか一度直接見ておきたかっただけ』

『そうでしたか』

『うん。だから、そろそろ帰ろうか』

『はい』

 軽く見て回っただけで興味を失ったヒヅキは、フォルトゥナにそう伝えて帰る為に振り返った。

「お前らこんな場所に何の用だ?」

 しかし、そこに横合いから男の低い声が掛けられ、ヒヅキは動きを止めてそちらに顔を向ける。

 顔を向けた先には、背丈が高く周囲よりは身なりのいい、筋肉質の男が近寄ってくるところであった。

 男はヒヅキの前で立ち止まる。男の方が背が高いので、見下ろしてくる形になり、また体格も良いので圧迫感がある。

 それでいて強面なのだから、一般人であれば大人でもビビるのかもしれないが、ヒヅキにはただの大きい人にしか思えない。その気になればいくらでも殺せるし、逃げるにしても一緒に居るのがフォルトゥナである以上、同行者を気にする事なく、もの凄く簡単に逃走可能なのだからしょうがない。

「道に迷いまして」

 ヒヅキは男に向けて、さも困ってますといった顔でそう告げる。

「迷った? 迷ったね……まぁいい。なら通りまで連れて行ってやるからついてきな!」

 男は観察するような目をヒヅキに向けると、少し後ろに居るフォルトゥナにも同様の目を向けた。その後、顎でヒヅキ達が来た道を指し示すと、偉そうに告げて先に進みだした。

『行くよ』

『はい』

 貧民窟にはもう用事もないので、ヒヅキは大人しく男について行く。

 男はヒヅキ達を気にしつつも無言で進み、入り組んだ建物の間を入ると、そのまま更に進んでいく。

「それで、アンタらの本当の目的は?」

 その道中、足を止めた男は振り返ると、ヒヅキ達に問い掛ける。

「ですから、道に迷ったと」

「はっ! お前らみたいな油断できない奴が道に迷うとも思えんがね」

 弱った様に出したヒヅキの言葉を男は鼻で笑うと、鋭い目をヒヅキに向けてきた。

「そう言われましても、道に迷ってしまったのですからしょうがないではないですか」

 困惑した表情と声音を心がけながら、ヒヅキは男に言葉を返す。

「……ま、面倒事を持ってこないというのであれば、そういうことにしてもいいが……」

 諦めたように息を吐くと、男は肩を竦めた。

「面倒事も何も、私達はただ迷っただけですから」

 困惑している演技を継続しながら、男の言葉に返事をせずに、ヒヅキは先ほどと同じような事を繰り返し言葉にする。

「……そうか。まぁいい。通りまでもうすぐだ」

 男は少し間を置くと、ヒヅキ達に背中を向けて歩き出す。

 ヒヅキ達がしばらく男に付いていくと、喧騒が大きくなってくる。

「ほら、このまままっすぐ行けば通りに出る。もう迷うんじゃないぞ?」

 狭い道を横に退くと、男は人が行き交う道の先を目線で示した後、ヒヅキ達に忠告した。

「ご親切にどうもありがとうございます。気を付けます」

 軽く会釈して男の前を通ると、ヒヅキ達は何事もなく通りに出る。

 その頃には日暮れ前で周囲が薄暗くなっていたので、通りを足早に進んでヒヅキ達はシロッカス邸へと帰るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ