襲撃
エルフの少女が村に急いで戻ると、村は騒然としていた。
村人の一人が少女を見つけると、驚いたような顔をして近づいてきてから、ホッとしたように声を掛けてくる。
「マリアちゃん!無事だったかい!」
マリアと呼ばれたエルフの少女は、状況が分からずに困惑しながら問い掛ける。
「ジィおばさん、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないよ、森でスキアが目撃されたらしくてね、みんなして村の防備を固めてたらマリアちゃんが居ないものだから村中大騒ぎよ!本当に無事で良かったわ!」
脱力するジィおばさんのその言葉に、マリアは申し訳なさとともに自分が先ほどまでそのスキアのことを伝えようと急いでいたことを思い出す。
「私、さっきそこでそのスキアに遭遇したの!早くみんなに報せないと!スキアがこっちに来ちゃうかもしれないわ!」
マリアの言葉に驚いたジィおばさんはマリアに詳細を問い掛けようとして、それは今自分がするべきことではないと思い直す。
「スキアが近くで目撃されたこととマリアちゃんが無事に帰ってきたことは村のみんなにアタシから言っておくから、マリアちゃんは村長の家に早く行ってそれを伝えておいで!」
マリアはジィおばさんの言葉に頷くと、急いで村長の家に向かった。
村長の家の中は重い沈黙が支配していた。
そこにもたらされたマリアが帰ってきたという報告は、多少の明るさを室内に取り戻した。
しかしそんな空気も、マリアの話ですぐに霧散する。
「近くまで来ているのか……」
誰かの呟きに、村長の家に集まっていた面々は再び沈黙する。
その沈黙を破ってエルフの男性がマリアに問い掛けた。
「お前を救ってくれたというその男性は村とは反対側に逃げたんだな?」
「はい、そうですお父様」
マリアのその返答に、マリアの父は何事か考え込む。
「では、あと三体の位置が分からないということですか……」
不安そうな魔族の男性の言葉を、マリアの父は首を横に振って否定する。
「その村の反対側に行ったスキアもまた近くに戻って来ているかもしれません」
「しかし―――」
「マリアを救ってくれた男性には心から感謝していますが、それと彼が無事かどうかは別の話です。仮に逃げきっていたとしても、スキアは追跡諦めて戻って来ているかもしれません」
マリアの父の言葉にまたしても沈黙が訪れる。
その男性がスキアを倒したとは考えていないマリアの父親の発言に、誰一人として反論する者はいなかった。当然だ、いるはずがない。なにせスキアは村人総出で相対しても一体でさえ対処しきれないほどの存在なのだ、誰が個人で倒せるなどと考えるだろうか。
それだけの存在であるスキアだ、近くで目撃された一体が戻って来て村にまで辿り着いただけで全てが終わる。
皆がスキアの対処に苦慮していると、にわかに外が騒がしくなり、室内に一人の男性が顔を青くしながら飛び込んできた。その男性は集まっている全員に聞こえる声で外の状況を報告する。
「た、大変です!スキアが、スキアが現れました!そ、その数……さ、三体!」
その報告の終わりとともに、外から獣の咆哮のような音が聞こえてくる。それはまるで、終焉を告げる鐘の音のようであった。