再会30
シラユリの呟きを聞きながら、ヒヅキはどれぐらい時間が掛かるのだろうかと騒ぎを眺める。
しばらくそうして騒ぎを眺めていると、やっと喧騒の輪の中から出てきたサファイアがヒヅキ達の許にやってきた。
「お待たせしちゃったわね」
近づいてきたサファイアはヒヅキを見て一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに申し訳なさそう表情で声を掛ける。
「ここは相変わらずだなー」
「まぁ、ね。ここでは落ち着いて話も出来ないから、場所を移しましょうか?」
シラユリの言葉に苦笑しつつ、サファイアは周囲を気にしながらそう提案した。
「そうだなー。ここはゆっくり話すには向いていないからなー」
その提案にシラユリが頷くと、サファイアの案内でヒヅキ達三人はギルドハウスの奥へと場所を移す。
奥に移動すると、そこは共用の空間らしく、大きな台所と大きな丸机が置かれており、その机を取り囲むように10脚を優に超える数の椅子が並べられていた。
そこには男女七人が寛いで机を囲んでいた。年齢は10歳ぐらいから50歳ぐらいまでと幅広く、思い思いに時間を過ごしている。
サファイアはその一団に軽く挨拶をして、更に奥に在る部屋の1つに入っていく。
ヒヅキ達が続いて部屋に入ると、室内は角机と6脚の椅子が置かれているだけの質素な部屋であった。
部屋に入るとそれぞれが椅子に腰かける。自然とサファイアの向かいにヒヅキ達三人が座る形になった。
「久しぶりね」
全員が着席したのを確かめたサファイアは、ヒヅキに顔を向けて声を掛けると、艶めかしく微笑む。
「そうですね。ガーデンを出る前にお会いした時以来ですね」
最後に話した時のことを思い出しながら、ヒヅキ言葉を返した。
「いつ帰ってきたのかしら?」
「3日前ですね」
ヒヅキの返事を聞いたサファイアは、急に不機嫌になる。
「そう。またシラユリちゃんを先に訪れたのね」
「当然だろー」
軽く頬を膨らませて抗議したサファイアに、横からシラユリの澄ましたような声が掛けられる。それにサファイアは不機嫌な目を向けるも、直ぐにヒヅキの方へと戻す。
「まぁ、今はシラユリちゃんのことはいいわ。それよりも、そちらの方はどなたなのかしら?」
フードを目深に被ったままのフォルトゥナの方へと顔を向けたサファイアは、簡単に自己紹介をする。
「初めまして、なのかしら? 私はサファイアと言います。貴方の名を教えてもらってもいいかしら?」
サファイアの言葉に、フォルトゥナはヒヅキの方に顔を向ける。それにヒヅキが頷くと、フォルトゥナは被っていたフードを脱いで素顔を晒した。
「彼女の名前はアルコ。私の古い知り合いで、見ての通りのエルフです」
見惚れるように驚くサファイアへと、ヒヅキがフォルトゥナを紹介する。それにフォルトゥナは軽く頭を下げた。
「あ、ああそうなの。それで、エルフの方はどうなっているのかしら?」
ヒヅキの言葉で直ぐに我に返ったサファイアは、ついでとばかりに訊いてくる。
それにヒヅキがエルフ族の現在について、シラユリにしたのと同じ説明を行う。それを聞いたサファイアは驚いた後、改めてフォルトゥナの方へと顔を向けた。
サファイアはフォルトゥナへと観察するような目を向けると、少しして何かに思い当たったように驚き、まさかという顔でヒヅキに問い掛ける。
「ヒヅキさん。もしかして彼女は……氷の女王、なんてことはないですよね?」
恐る恐るといった感じでされたサファイアのその問いに、ヒヅキは感心したように軽く驚きつつ答える。
「よく分かりましたね。そうです、彼女がかつて氷の女王と呼ばれていたエルフです」
気軽に返されたその答えに、サファイアは絶句したように固まった。