再会25
「とりあえずシラユリさんのところだけでも行ってみるかな」
天上に目を向けると、昼に比べて若干暗くなってきてはいるものの、まだ夕方になるには時間がある。
仮に今から引き返したとしても、シロッカス邸に到着するのは日暮れ前後。時間もそれほど無いので、今回は一番近いシラユリのところを訪ねてから、その後のことはその時にでも考えることにした。
そういう訳で、迷路を抜けて少し進んだ場所に在る、シラユリが所属するギルドのギルドハウスへと、記憶を頼りに向かう。
以前と少し見た目や雰囲気が変わった区画を進み、地味な色合いの一軒の家に到着する。
「………………確かここだったな」
そこは以前来た時と違い、外観の色合いが新しくなっているものの、記憶にあるギルドハウスで間違いないかと中へと入る。
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用件でしょうか?」
中に入ると、直ぐにやや幼さを残す綺麗な声が掛けられた。透明感のあるその声にヒヅキが目を向けると、そこには全体的に色素の薄い少女が立っていた。ここのギルドの受付の少女だ。
「シラユリさんはいらっしゃいますか?」
ヒヅキが問うと、少女はヒヅキの顔を思い出したのか、ああとでも漏らしそうな表情を浮かべた後に、少し待つように言い残して奥へと消えた。
少女が奥に引っ込んだ後、しばらくヒヅキとフォルトゥナは入り口付近で待機する。
「ヒヅキ様がお訪ねになった、シラユリというのはどのような方なのですか?」
手元に目を向けて、手土産を渡し忘れたなとヒヅキが考えていると、手持無沙汰のフォルトゥナがヒヅキに目を向けて問い掛けてきた。
その問いにヒヅキは「んー」 と短く声を出してシラユリについて思い出すと、簡単な説明を行う。
「シラユリさんは冒険者で、前にお世話になった方ですね」
「そうでしたか」
フードを目深に被ったまま、フォルトゥナは頷く。別段シラユリに興味があった訳ではないようで、それだけの説明でも十分だったようだ。
二人がそんな話をしていると、奥から人の気配が近づいてくるのを感じて、そちらに顔を向ける。
「おぉー! 久しぶりだなー、ヒヅッキー!」
奥から姿を現したシラユリは、ヒヅキを視界に収めると、喜色を浮かべて声を上げる。
「お久しぶりです。シラユリさん」
「いつ帰ってきたんだー?」
「昨日の夕方頃だったかと」
「そうかー。元気そうでよかったよー」
安堵の声を出すシラユリに、ヒヅキは思い出したように手土産の一つを差し出す。
「ここに来る途中に購入したものですが」
「おぉ! いつもありがとうなー」
ヒヅキが差し出した手土産を、シラユリは礼と共に受け取ると、軽く中身を確認してから受付の少女に渡した。
手土産を受け取った少女は、ヒヅキ達に一礼してからそのまま奥へと下がる。
「さて、ここで立ち話もなんだから、向こうの部屋に案内するよー」
シラユリは入り口の反対側の壁際に並ぶ扉の1つを指差すと、ヒヅキとフォルトゥナをその扉の先に案内する。
扉は木製の前後に開く普通の扉。その先の部屋には楕円形の机と、6脚の椅子が机を囲むように置かれている。他には天井から室内灯として魔法道具が釣り下がっているだけ。窓が無い為に閉塞感があった。
「適当に座ってくれー」
明かりを点けて手近な椅子に腰かけながら、シラユリは二人にそう声を掛ける。
その言葉に従い、ヒヅキとフォルトゥナは適当な席に腰掛けていく。
「旅の様子を色々と訊きたいけれど、まずはそちらの顔を隠している人を紹介してくれないかなー? ヒヅッキー?」
可愛らしく小首を傾げてそう問い掛けたシラユリに、ヒヅキは頷きフォルトゥナの方に顔を向けた。
「彼女は私の古い知り合いでアルコ」
ヒヅキがそういったところで、フォルトゥナはフードを取る。
「見ての通りのエルフです」
ヒヅキはちらりとフォルトゥナの方へと目を向けた後、少し悪戯っぽくシラユリの方へと視線を戻した。




