再会19
時間を忘れて色々と今後の予定について考えていると、ふと左腕に体重が掛かったのを感じ、そちらに目を向ける。
「………………フォルトゥナ?」
そこには、ぐったりとしたフォルトゥナの姿があった。そんなフォルトゥナを見て、どうやら湯あたりしたようだと判断したヒヅキは、フォルトゥナを丁寧に抱え上げて、湯船から外に出す。
「さて、どうしたものか」
脱衣所まで連れていくべきか、洗い場に横たえて意識が戻るのを待った方がいいか、ヒヅキは困ったように思案する。
少し考えた後、湿度が高く温かい浴室よりも、浴室よりは涼しいだろう脱衣所に場所を移すことに決めて、ヒヅキはフォルトゥナを抱き上げたまま風呂場を出て脱衣所に移動した。
脱衣所でフォルトゥナの身体を拭き、持ってきていた服に着替えさせる。その後はフォルトゥナを床に横たえたまま、自分も身体を拭いて急ぎ着替えを済ませる。
ヒヅキも着替えを終えると、床に寝かせたままなのは可哀想かと思い、二人分の服を纏めてから床に寝かせていたフォルトゥナを抱き上げ、脱いだ二人分の服を手にして風呂場を出る。そして外に出ると、籠を持ったシンビが待っていた。
「大丈夫ですか!?」
ぐったりしているフォルトゥナを見て、シンビが慌てたように声を掛ける。
「湯あたりしたのでしょう。部屋で横にしていればいずれ目を覚ますでしょうから、心配なさらず」
「そうでしたか。では、御部屋に水を御持ちしましょうか?」
「お願いします」
「畏まりました」
シンビは了承のお辞儀をする。一応部屋には水の入った水差しは用意されているが、それとは別に身体の熱を冷ますようにという事だろうと判断したヒヅキは、シンビの提案に頷いた。
「それでは、洗濯物を御預かりいたします」
脱いだ服などを受け取ろうと、シンビはそう言ってヒヅキの方に手を伸ばす。
それに僅かに逡巡したヒヅキであったが、アイリスへの魔法の授業もある為に、もう数日は滞在することになるだろうと考え、大人しくシンビに洗濯物を預ける。
籠に洗濯物を入れたシンビは、一礼して二人を部屋まで案内する。そのまま部屋の前まで案内したシンビは、手が塞がっているヒヅキに代わり扉を開けると、二人を室内まで先導してから、軽く頭を下げて洗濯物を持って部屋を離れていく。
ヒヅキは室内に入ると、寝床の上にフォルトゥナを横たえ、部屋の窓を開けたついでに外の空気を吸う。
外の冷えた外気を室内に入れながら、ヒヅキはフォルトゥナが目覚めるのを待つことにした。
「………………」
窓を開けて少ししてからシンビが水の入った桶と手ぬぐいを持ってきた。
ヒヅキはそれを受け取った後、水に濡らして絞った手ぬぐいで軽くフォルトゥナの顔を拭いて、再度濡らして絞った手ぬぐいを額に置いた。
それからしばらく外の景色を眺めていたヒヅキは、ベッドに寝かせているフォルトゥナの方へと顔を向ける。
フォルトゥナは全身を火照らせ、少し苦しそうな表情をしながら、眠ったように動かない。そんなフォルトゥナの様子を眺めたヒヅキは、何かを思い出して、窓際から場所を移して自分の背嚢を手にする。
「えっと……」
ヒヅキは背嚢の中を漁り何かを探しだすと、ややあって目的のモノを見つけて背嚢の中から取り出した。それは何処かの民族が儀式ででも使いそうな、不気味な雰囲気のお面。
それを手にしたヒヅキは、フォルトゥナが寝ているベッド脇に移動し、ぬるくなった手ぬぐいを再度濡らして絞ってから額に置いた後、背嚢から取り出した仮面を左右に振ってフォルトゥナへと風を送る。
しばらくそうして仮面であおぎながら風を送っていると、フォルトゥナの全身の赤みが薄らいでいく。そして、フォルトゥナの全身から赤みが引いて、表情にも苦しそうなモノが無くなったのを確認したヒヅキは、あおぐのを止めて仮面を背嚢に戻した。
仮面を仕舞った後に、ヒヅキがフォルトゥナの傍に寄って様子を確認すると、ちょうどフォルトゥナがゆっくりと目を開けるところであった。
「のぼせたようだったけれど、大丈夫だった?」
フォルトゥナの意識が戻ったのを確認したヒヅキは、額に置いていた手ぬぐいを回収しなら簡潔に説明して体調を問う。
その問いを受けて、フォルトゥナは緩慢な動きで上体を起こして、自身の身体を触りながら身体の調子を確かめていく。
そんなフォルトゥナを横目に見ながら、ヒヅキは手ぬぐいを桶に戻して、ベッド脇に在る棚の上に用意されていた水差しの水を容器に注ぎ、フォルトゥナの方へと差し出す。
「え? あ、ありがとうございます!」
差し出された水に一瞬呆けた声を出したフォルトゥナだが、直ぐにその意味を解して、慌ててヒヅキに礼を言いながら容器を受け取った。